逆転裁判

オリオン

2004/12/08 初出 みつ→なる どれもこれも大抵×じゃなくて→なのでアレですが

 バイバイ、と笑って、彼は手を振り、三番線のホームへと走っていった。その背中が消えるまで目を離せない自分は馬鹿だと思う。思ったところで身体が動いてくれるわけではないので結局のところ意味は無い。馬鹿だという自覚が自分の中に存在するという、ただそれだけだ。
 夜も遅いのに相変わらずの混雑にまみれた駅だから、少し離れたならもう、見失ってしまいそうなものである。けれど、ホームへの階段を彼が登り切り、壁がその姿を隠すまで、小さくなってゆく背中をいつだって、最後まで、視界にとらえている。
 あふれるくらいに人が居て、男も女も老いも若きも数え切れないほどが歩いていくこの駅で、たった一人の後ろ姿を見失わない。
 どうしてだろう。
 非合理全てを排除して生きてきた。意味のない行動に価値は無いと、信じてきた。すなわち用が終わればそれで仕舞いが当然で、一つ事が片づけば次の仕事に取りかかる。用が済んだなら相手を見送るなど時間の無駄だ。文字通り、用済みなのだから。
 しかるに今、自分の取っている行動は、全くもって無意味である。
 どうして自分は、こんなところに突っ立って、ぼんやりと、あの遠ざかっていく背中を眺めているのだろう。
 少しでも早く家に着くように歩き出すでもなく。出なくなったボールペンを買い換えに店に入るでもなく。
 小さくなる背中を、まばたきすら惜しく、ただ見ているのは何故だろう。
 知らず、ため息が落ちた。
 見送る意味がどこにある。
 立ち止まり、こっちを向いて、最後に会釈でも寄越すのならまだしも、慌ただしく、発車ぎりぎりの電車の扉に飛び込むために走り去るのだから。
 けれどそんな考えが浮かぶ事自体、自分がこれまで後生大事に守ってきた行動規範を逸脱していると、本当はとうに解っている。
 見送りなどしないのは、見送りに気付かない相手に時間を費やす事が無駄だからなのではなくて、相手がどうあれ仕事の時間を削られるのが勿体ないからだ。そのはずだった。それが今はどうだろう。
 気付かない脳天気が恨めしい。
 それは気付いて欲しいと心のどこかで思っているからに他ならない。
 でなければ、さっさとこの足を動かして、何処へなりと有意義に時間を使える場所へ行ってしまえばよいではないか。
 簡単だ。あの後ろ姿以外のどこか別の方を見て、右足を一歩、次に左足を一歩踏み出す。後はそれを繰り返せばいい。簡単なことだ。いつもそうしてきた。そんな簡単なことが、どうしてできなくなってしまった?
 その疑問の答えにしても、腹立たしいほど、簡単である。
 
 師走の街、賑やかさを増して、雑然と人が行き交う。
 
 この人もその人もあの人もどの人も、皆その他大勢の雑踏の中で
 どこにでもあるような背広を着て
 何の変哲もない鞄を持って
 地味な黒い靴を履いて
 大量生産の無地のマフラーをなびかせて歩いていく彼の背中が
 何故かなど解らない
 ただ、他の何とも混じらない
 
 それだけなのだ。
 
 駅員が吹く、甲高い笛の音がこれでもかと響き渡る。
 急がなくとも、次がすぐに来るではないか。
 ホームに消える背中を見て、この街で初めて、そんなことを思った。
 
 自分の乗るべき路線の列車が出て行く音を聞きながら。

オリオン座と全然関係無い内容ですねハハハ orz
私は星座とかほんと星図片手にでも見分けられない人間なんですが
唯一オリオン座だけは何もなしで空を見上げるだけで認識できるんで
それがタイトルの由来です
全人共通の習性じゃないんだから非常にわかりづらくてダメな感じ (|||´Д`)
ちょうど書いたのが冬だったのでオリオン座がよく見えていた時期だというのもあります 

2007年11月09日 12:55

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