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   <updated>2009-02-18T07:27:46Z</updated>
   <subtitle>らくがきおきば　ジャンルごったに</subtitle>
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   <title>序章</title>
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   <published>2009-02-17T12:43:27Z</published>
   <updated>2009-02-18T07:27:46Z</updated>
   
   <summary>a Silent Bird, and a Singing Priestess.</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Ragnarokonline...Magnolia" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      　春が近付くこの時期、首都の大通りを行く人は日に日に増していく。冬に閉ざされた道が解けるにつれて、他の街は言わずもがな、他国からも、旅行に商いにと、人々がやって来るのだ。道ばたに店を出す露店商人と、それを物色する通行人で通りは賑わっている。
　その片隅で、歓声が上がった。
　人がひしめく通り、そこここの露店の端に出来ている人だかりの中でも一際密に、ぐるり輪の形で、人が並んでいる。そして、ぽっかりと隙間の空いた中心には、紫、青、黄の鮮やかな布地でできた派手な帽子を身につけた、一人の道化が居た。
　そこらの大道芸人が見せているのは大方が器楽の演奏や歌唱だったが、彼が演じているのは軽業だった。鞠をいくつも投げ上げては受け止め、その合間に身を翻してはくるりくるりと宙を舞う。ひとつ投げては一回り、ふたつ投げては二回り。ぽんと飛び上がって空を背に宙返り、陽光に燦めく何本もの銀色のナイフをいとも平然と放っては受ける。その度に観衆からため息のような歓声が漏れる。れっきとして曲芸でありながら、踊ると言い表しても差し支えないほど優雅だ。近くでは誰も演奏してなどいないのに、彼の流れるような身ごなしを見ていると、ふとした一瞬、音楽が聞こえるような錯覚を覚える。
　彼の両手首と両膝に結ばれている長い細布の裾が、一度も地に着いていないことに、人だかりの誰が気付いているだろうか。それだけ休み無く飛び回りながら、彼は、一向に息を切らす様子もない。美しい琥珀色の細布がひらめき、結び目に飾られた鈴がしゃらしゃらと鳴る。合わせて、帽子の金飾りがきらきらしく輝く。目の周りに濃青の顔料で軽く化粧を施した端正な顔に笑みを浮かべる彼は、一言の呼び込みも無しにその技だけで、道行く人を次々と惹き付けていた。
　と、歌が聞こえた。
　それは錯覚ではなかった。遠慮がちで小さくもよく通り、誰の耳にも届く、やわらかい声だった。細い絹糸で織られた布地を撫でる感触にも似て、人の隙間をそっと滑らかに通り抜けていく。小さな声が奏でるのは彼の知らない旋律だった。それでいて彼の一挙手一投足にこの上もなくぴったりと沿い、踊るような彼の軽業を本当に舞踊に変える。
　彼は、顔を上げた。実際にそのような動きをしたわけではない。心持ちとして顔を上げた。ついさっきまで、彼にとって、観客達は一様に背景だった。通行人、連なる露店、若葉映える並木、そういったものと同じに彼の周りをただ取り巻いているだけのものだった。そのどこかにあらわれた、他と違うものを、彼は視線だけで探した。
　道ばたで彼を囲む人混みの片隅、前から二番目と三番目の間、人と人の隙間に隠れるようにして、一人の少女が立っていた。観客達は皆ぽかんと彼に見入っている中で、頬を淡く紅潮させ、明るい若葉色の瞳を一杯に開いて彼を見つめる彼女の、桜貝のような唇が動いている。聞こえる歌の音に合わせてその唇は形を変えた。歌っているのは彼女だと、彼は見て取った。
　おそらくは即興で、彼の動きに合わせて旋律を作っているのだ。少々のあやふやさは否めないが、それを補って余りある魅力を持つ美しく明るい歌いぶりである。歌には歌詞がほとんど無いようだった。賛美歌に似て、いくつかの小節を繰り返し口ずさんでいる。小鳥がさえずるように、彼女は歌っていた。
　趣味なのかどこかの楽団に属しているのかは知らないが、外見からしてまだ相当に年若いだろうにそれだけ歌えれば立派なものだ。彼は心の中で、彼女の歌を、そう評した。
　遠くで、鐘が鳴った。この街で一番高い尖塔の天辺に据えられた鐘が、幾重にも響き正午を知らせる。
　それを合図にするように、これまでよりも一層高く、彼は色とりどりの鞠を投げ上げた。銀糸で施された刺繍が明るい太陽にきらと輝いた。それが落ちてくるよりも先に、彼は頭上に手を掲げ、思い切りぱぁんと音を立てて打ち合わせた。乾いた大きな音とともに、まるで魔法が解けたように、観客達ははっと我に返る。その眼前で、彼は帽子を取り、空から順に燦めきながら落ちてくる手鞠をそれで受け止めて、その動作が流れるまま優美に一礼した。
　ぱらぱらと起こり始めた拍手はすぐにさざ波から大波になった。彼が無造作に横に置いていた楽器用の鞄に、小銭が投げ込まれる。それは中身の楽器を芸に使うために開けてそのまま放っておいただけのもので、特に金銭目当てで置いてあったわけではないのだが、与り知らぬ観客は、そこに金を投げ入れた。紙幣も少なからず混じっていた。見料を求めて帽子を差し出しても僅かな小銭しか得られない者も少なくないというのに、そういった行動を取らない内から自発的に金を投げる客が多いのは、彼の芸がそれだけ見事であることの表れだろう。
　彼は、深く折っていた身体を半ばまでゆっくりと起こした。持ち上げた視線の先には、数人分の人垣を隔て、少女が居た。ぱっちりとした緑の瞳を瞬いて、彼女は何か言おうとした、ように見えた。それは気のせいかもしれないが。
　歓声と雑踏に混ざって、呼び声が聞こえた。彼女は弾かれたように声のした方を振り返った。また呼び声が響いた。あれは彼女を呼ぶ声らしい。何と言っているのか、口笛や歓呼の声に遮られて、彼にはよく聞き取れなかった。多分名前なのだろうけれど。
　彼女は名残惜しげに、呼び声の主（の、いる方向）と彼を交互に見比べていたが、今度はもう少し大きな声が飛んできた。ねえ、どこにいっちゃったの？　少し不安そうな声色だ。それでついに、彼女は踵を返した。
　遠離る彼女の後ろ姿を、彼は礼の姿勢のまま見送った。
　行き交う雑踏に小さな背中が紛れていく。それで終わるのだと彼は思っていた。
　大道芸など通りすがりの一期一会だ。よしんば二度三度と芸を見に来ることがあったとしても、そして実際にそういう客はいるにはいたが、いつまでだってこの、観客と自分との隙間は埋まらない。数歩引いた場所で熱に浮いた目をして見物し、芸が終われば夢から覚めたように帰って行く。その他大勢の観客の真ん中で彼はいつだって独りだ。しかし彼はそれを別段不服だとも孤独とも感じない。自分からそのような道を選んだのだから。
　少女の明るい緑の瞳が、ふと脳裏を過ぎる。自分の芸を見ている観客達の中から、特定の人間を意識してとらえたのは久しぶりで、だから妙に記憶に残ったのに違いない。その面影も、早晩消えて無くなるだろう。
　彼は見せ物の道具を手早く片づけると、邪魔になる飾りを衣装から取り払って鞄に放り込み、荷物を背負ってその場を後にした。食べ物の屋台が並ぶあたりにでも行って、昼食を物色するつもりだった。午後はどうするか、まだ決めていない。またどこかで軽業を見せても良いし、今日は部屋に帰っても良い。別段金に困っているわけでもないのだし。とりあえずは昼飯で、話はそれからだと、彼は考えるのを止めて、道を歩いた。
　彼が去ると、さっきまで華やかな舞台のようだった場所は、並木がうっすら影を落とすただの道端に戻った。後はただ、雑踏のざわめきが、そこを満たすばかりだった。
      五月か六月に本にするか、
webでこのまま完結させて終了かはとりあえず保留で
放流してみます。
冠プリで一般向けでござい。
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   <title>メモ</title>
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   <published>2009-02-17T06:28:55Z</published>
   <updated>2009-02-17T06:29:09Z</updated>
   
   <summary> 　首から提げた銀の十字架で教会の者だとわかる。質素が信条の彼ららしく、身につけ...</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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　首から提げた銀の十字架で教会の者だとわかる。質素が信条の彼ららしく、身につけているのは黒や紺を基調にした地味な衣服だ。だが襟元と腰に、服地と共布のリボンを結んでいて、それが少女らしさをほんのりと添えている。
      
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   <title>02：すらりとした指</title>
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   <published>2009-01-28T07:04:07Z</published>
   <updated>2009-03-26T17:47:41Z</updated>
   
   <summary>　雪でも降りそうな、寒い冬の昼下がり。雑貨屋に入ったのは、もうすっかりぼろぼろに...</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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      　雪でも降りそうな、寒い冬の昼下がり。雑貨屋に入ったのは、もうすっかりぼろぼろになってしまった彼女の鞄を買い替えるためだった。
　その鞄は仕事に使っているものだ。丈夫な厚手の生地で出来ていて、彼女はそこに、もしものときのための薬やら手当の道具やらを容量の限界まで詰め込むのが常である。結構大きめの鞄なので、当然非常に重くなる。初めて持ってみたとき、彼はあまりの重さにそれはそれは驚いた。出来ればこの機会に小さめを選んでもう少し荷物を軽くしてほしいと彼は思うのだが、彼女はこの大きさが自分で持ち歩ける目一杯だからちょうど良いのだと主張しており、今手に取ってみる鞄も全て現状とほぼ同じ大きさのものばかり。どうせ言っても聞きやしないと彼は諦め、せめて鞄自体は極力軽く、それでいて丈夫なものをと、探す手伝いに励んでいる次第だ。
　と、彼女の視線が、鞄の並んだ棚から外れたところへ向けられた。それを追って彼も顔を上げた。そこには小さなクリスマスツリーや木彫りのそりの飾りとともに、毛糸の手袋が置いてあった。
　細いふわふわとした毛糸を使った、あたたかそうな手袋が、色違いでいくつも並んでいる。中でも、赤と橙と生成の、やわらかい暖色で編まれた花の模様は、いかにも彼女が好きそうで、目を引くのも頷けた。彼女は鞄を選ぶ手を止めて、だがしかし手袋の方に行くかといえばそうでもなく、気もそぞろに何やら落ち着かない様子だ。彼は思わず吹き出しそうになった。何を考えているかは大体わかる。人を買い物に付き合わせているのだから、まだ目的も終わらせない内に寄り道するわけにはいかないと我慢をしている、いや、しようとしている、のだ。結局気が散ってさっぱり鞄の選別が進まないのでは、せっかくの我慢も意味がないというものだが、その様子もかわいいと彼は思った。
　見てきたらいいよ、と彼は手袋を指さし、笑いながら言った。彼女はぱっと顔を上げ、目をきらきらさせて、いいの？　と尋ね返した。彼は笑ったまま頷いた。彼女は嬉しそうな笑顔で、道に面した大きな硝子窓のすぐ傍に置いてある手袋のところに、てててっと軽い足取りで駆けていった。
　彼女が小さな手でそっと取ったのは、やっぱり彼の思ったとおり、花柄の手袋だった。しばらくじっと見つめてみたり撫でてみたりしていたが、ややあって、
      　小さな身体に似合わない妙に大きな肩掛け鞄は、ベルトの片方が取れかけ、底の縫い目はかなりほつれている。ポケットのボタンはひとつ取れてどこかにいってしまった。実はこれは買って一年も経っていないので、ものを大事に使う彼女にしてはやけに傷みが早いといえる。だが普段その鞄がいかに激務に耐えているかを鑑みれば、それも納得だろう。
　戦闘を伴う仕事のたびに、応急手当用の薬や道具をこれでもかと詰め込むのだから、早々に駄目になるのも当然だ。許容量限界まで薬の入った鞄は大きい。小柄な彼女が背負うと、鞄と身体の比率は、まるで学校に行き始めたばかりの子供のようである。当然重さも半端ではない。初めて鞄を持ってみた彼は、あまりの重さに仰天したものだ。
　持とうかと申し出ても、大丈夫だ自分で持つと聞かなかった。自分で持てない量は入れてこないとも言った。あなたの鎧と武器の方が重いでしょう、と彼女は付け加えたけれど、そもそも体格も力も全く違うのにその比較に何か意味はあるのか。
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   <title>01：さらさらの髪</title>
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   <published>2009-01-27T08:39:30Z</published>
   <updated>2009-01-27T13:23:16Z</updated>
   
   <summary>昨日即興で見繕った美人お題の一個目でござるます。 中身は全部一般向け某騎士プリで...</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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      <![CDATA[昨日即興で見繕った美人お題の一個目でござるます。
中身は全部一般向け某騎士プリで行く予定、
ｓｓは続きのところに入れておきますよ(´∀｀)つ<!--more-->
　
　
　休み前日、夕食後のゆったりくつろぎタイムである。彼はソファに座ってコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
　昨日露店通りで騒いでいたのでとっつかまえた馬鹿者のことが隅っこで記事になっている。捕えたのは彼とその同僚である。ごった返す人混みをかき分け追いかけるのは少々骨だった。しかもふん捕まえて石畳に押さえつけたらぎゃあぎゃあ五月蠅いわ暴れるわ、公務執行妨害も罪状につけ加えてやろうかと真剣に考えたくらいである。
　そんなことを思い出していたらうんざりした気分まで一緒に蘇ってきた。ああやめだやめだ鬱陶しいことはとりあえず忘れてしまえとばかりに彼は肩をすくめ、新聞のページをめくった。紙の擦れ折れる乾いた音が、静かな部屋にぱりりと響いた。次の紙面には、今見頃の花はどことどこだとか、店はどこそこのが人気だとかいう行楽情報が載っていた。彼はあまり出歩くことに興味はないが、彼女が喜ぶだろうし行ってみても良いかもしれないと、書いてある情報を頭に仕舞い込み始めた。
　と、台所でちまちま動き回っていた彼女がソファのほうへやってくる足音がぱたぱたと響いた。甘い良い匂いがしている。作っていた菓子が出来上がったのだろう。彼は、新聞に目を落としたまま、その小さな足音を聞いていた。
　さほど広くない家だ。すぐに足音は近付いてきた。ところが彼が座っているちょうど真後ろあたりでぴたりと止まった。そして一向に動く気配が無い。ソファの隣は空いたまま、ただ背中のほうから焼き菓子の匂いだけが漂っている。
　はてどうしたことかと彼が顔を上げかけたところで、彼の頭にぽてりと薄い手が置かれた。そのまま何やらもそもそと髪をかき回している。撫でるというにはいささかに手の動きが違うようには思うが、彼は、そうやって頭に触れられることなど滅多にないので、物珍しさもあって大人しくされるままになっていた。すると、彼女の小さな小さな声が、頭の上から落ちてきた。
　あなたはいいな、まっすぐできれいな髪で。
　それで、彼は、ああなるほどと合点がいった。
　彼女の髪は金髪に近い淡い色で、ふわふわと巻いた猫っ毛だ。それをくりんと左右でまとめてリボンを結んでいる。可愛らしい顔に似合っていて良いと、彼や友人達などは思っているのに、彼女は自分の髪がお気に召さないらしい。まっすぐさらさらの長い髪が憧れなのである。たとえば彼の姉なども、彼と同じくどこまでも真っ直ぐに伸びていく上に見事な金髪で、それを腰あたりまで伸ばしているのだが、会うたび会うたび、彼女はじーっと羨ましそうに見詰めるのが常だ。
　何がそんなに羨ましいのだか彼には理解不能である。彼の姉は造形こそ非の打ち所がないほど美しいが、勇ましいを通り越して怖ろしい猛者だ。強い女が嫌いなわけでは断じてない、しかしあれを目指すのはさすがに勘弁して欲しいと思ってしまうのは、彼の脳裏を走馬燈のようによぎる、恐怖譚といって差し支えない、姉との思い出のなせる業だろう。
　彼は新聞を膝の上に置くと、ソファの背にもたれかかって後ろに立つ彼女を下から覗き込んでみた。ちょっぴりへの字の眉と唇もそれはそれでかわいいけれど、やっぱり笑っているほうがいい。腕を伸ばし、ちょんと頬をつついてみる。似合っているからいいじゃないかと彼は言い、その後に、かわいいよと付け加えた。何をどう聞いても褒め言葉以外の何物でもなかろうに、彼女はやわらかい頬をぷっと膨らませてますますへの字に眉を曲げた。
　また子供扱いする！　ほんのちょっと声に棘が生える。彼女は彼の髪を触るのを止め、さっきより少し素っ気ない足音を立てて、そこから離れた。彼の手はなんにもない空間にふいと置き去りにされる。しまった怒らせたかな、と彼は少しばかり焦ったが、彼女はふくれっ面のまま、それでも彼の隣に腰を下ろした。ぽすんと軽い音がして、ソファが僅かに沈んだ。
　彼女はちょっとうつむき気味、ちょうど自分の爪先あたりに視線をやって、クッキーを載せた薄紙をもぞもぞと手持ち無沙汰にいじっている。彼はそのクッキーを落とさないように気を遣いながら、そうっと彼女の肩に腕を回した。軽く抱き寄せると、甘い匂いがする。バターや砂糖や蜂蜜の混ざった香り。クッキーだけがそこにあっても同じように香ってくるのだろうけれど、それだったらきっと、自分はその優しい甘い匂いを、良い匂いだ、と殊更に意識しないだろうと、彼は思う。
　きれいになりたいのにな。隣で彼女が消えそうな声で呟いた。
　要は、彼女の中では、『かわいい』すなわち『幼い』という認識が出来上がっているのに違いないと彼は見当付けた。まあ相当な童顔であることは確かなので、彼と並んで歩いていると時々兄妹と間違われることもあるほどだ。気にするのは仕方ないかもしれない、が。
　別に無理しなくったって、十分かわいいのになあ。
　拗ねたようにうつむく彼女の頭を撫でながらそんなことを考えている彼には、たとえ彼女の思考経路が推測できたところで、かわいいという形容以外に褒め言葉が思いつかず、従って上手くとりなすことも不可能なのだった。]]>
      
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   <title>cLover Crown</title>
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   <published>2009-01-26T02:15:41Z</published>
   <updated>2010-07-08T16:34:55Z</updated>
   
   <summary>You are my only ONE!</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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         <category term="RagnarokOnline ...Words of LOVE" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
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   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      　のんびりとした、昼下がりである。今日は非番なのでなおさらのどかさは増すばかりだ。ほんのりとあたたかい日差しが降り注いでいる。随分と寒さは薄れた。もうそろそろ、春だと言ってしまってもいいかもしれない。
　彼は白詰草の原っぱにごろり寝転がり空を見上げていた。彼の視界に映る流れていく雲が、時折あちらからこちらに飛び移るのは、彼が眠気と戦っているからである。戦況は、若干劣勢か。そしてその隣では、彼女がちょこんと座ってせっせと花を編んでいる。小さな手では、長い茎を押さえるのは大変そうだ。手伝おうかと彼は一度申し出てみたが、彼女はふるふると首を横に振って、一人でやると言い張ったので、彼は大人しく引っ込んだ。
　ぷちぷちと花を千切る音がする。かすかな草の匂いが、空気にまだ少し残る冷たさと相まって心地よい。時々あれれという声が聞こえてくる。編み方を間違えたようだ。そのたびに彼はちょっと吹き出しそうになる。
　彼女は料理は本当に上手なのに、こういった細工はあまり得意ではない。それというのも、彼女のきょうだいは数こそ多いもののほとんど男ばっかりだった上に、唯一の女きょうだいである姉までもが、そこらの男を震え上がらせるほどの猛者と来ているからだ。当然、誰も、末っ子の彼女に編み物や花遊びやままごとといった類のことを教えてやらなかった。よくぞまああの中で育ってこんなおっとりほんやりした性格に仕上がったものだと、彼は不思議に思うこともある。だが同時に兄姉一同、揃いも揃って末の妹を、まさに愛に溺れそうな勢いで溺愛していたようなので、納得できるといえばそうでもある。正真正銘の箱入りというわけだ。
　ちなみに料理だけ得意なのは、小さな体格に似合わず食いしん坊な彼女が、食べたいものがあるなら自分で作ればいいんだとばかりに自学自習に励んだ結果らしい。まったくもって、彼女らしい。
　すぐ傍に感じられる暖かい気配が気持ちいい。そろそろ睡魔に負けてしまおうかと彼が思い始めた頃合いである。できた、という弾んだ声が降ってきた。
　それで身体を起こそうとした彼の頭に、ひやりとした白詰草の葉が触れる。手をやると、所々茎が飛び出した、おそらくは心持ち不格好だろうと思える白詰草の冠があった。彼は少々面食らった。
　彼の容姿は十二分に整ってはいるが、どちらかといえば精悍だとか、悪く言えば冷たいという表現が合う容貌である。花冠など、どうひいき目に見ても似合いはしないのだ。彼女の目を通したってそれは同じだろう。彼女の頭に飾られるとばっかり思っていたのに、何故？　彼は不思議そうに首を傾げた。ただし、折角載せられた、やや大きめの花冠がずり落ちない程度に控えめに。
　自分で着けないのかい、と彼は尋ねてみた。彼女はぱちくりと瞬きをして、それから、さも当たり前だと言わんばかりにこう答えた。だって冠は一番の人にあげるものでしょう？
　彼女が笑う。わたしのいちばんはあなただから、それはあなたのもの。そう言って笑う。
　地を覆う濃い緑の葉、白い花。所々に顔を出した鮮やかな黄色の蒲公英。よく晴れた青い空。きれいなものの真ん中で、いちばんきれいな彼女が笑う。
　
　勝者には月桂樹、王者には黄金を。
　でも他のどんな栄誉だって、きっとこの花には敵わない。　
      リアル春にはちょい早いけど、のんびり春の昼下がり。
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   <title>secret 11; I Love You.</title>
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   <published>2009-01-16T15:10:02Z</published>
   <updated>2009-01-17T10:52:39Z</updated>
   
   <summary>きみを想う言葉はすべて　&quot;愛しているよ&quot;　と　同じこと</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Words Of LOVE" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="4" label="text" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      　仕事は終わった、引き継ぎも済ませた。これで明日から年明けまで休みだ。ああ長かった。彼は小さくため息をついて、自分の荷物置き場に割り当てられている物入れの戸を閉めた。
　クリスマスから休暇を取るために、今日まで二週間半、連日朝から晩までひたすら仕事だった。見回りだの新人の訓練だの夜勤だの。休みは一切合切無し。ついでに残業のおまけ付き。騎士団の仕事は通常任務でも結構なものである。普通に考えればそろそろ疲労困憊な頃合いだ。それでも彼は、疲れよりは高揚を感じていた。
　更衣室を後にし、すれ違う同僚達に会釈しながら廊下を通り抜ける。親しい同僚の一人が、珍しく浮かれた顔してんな、と、やっかみ半分、からかい半分笑って言った。そりゃそうだろ、と、彼は機嫌良く返した。それで余計、同僚は物珍しげに彼の顔を眺めた。いつも飄々としてどこかつかみ所の無い彼が、そんなにわかりやすく感情を出すなんて滅多とない。
　良い年を、という送り言葉を背に、彼は大きく重い鉄製の入り口扉を開ける。外に出た途端、ぱっと弾けるような寒さが彼の頬を叩いた。太陽はもう西の空に被さる建物に隠れ、僅かにその残照を下端に残すのみだ。肺から体温を奪う冷たい空気を吸い込みながら、彼は一度足を止め、首にかけたマフラーを巻き直した。
　やわらかい毛糸で編まれたマフラーである。穏やかな美しい色味で、凝った模様編みが施されている。それは彼が数日前にもらった贈り物だった。
　彼の私物は大抵、黒か、濃色の地味な色合いだ。色物は一切と言って良いほど持っていない。だが、彼の可愛い恋人が差し出したマフラーは、淡い青と若草の、明るい色をしていた。派手ではないが、彼の手持ちのものとは一線を画していると言えよう。
　黒が良かった？　いささか遠慮がちな声とともにこちらを伺う彼女に、彼は、いいやそんなことないよと即座に返した。それでふわっと笑って、手にしたマフラーを自分に手渡す彼女の顔を、彼は思い出す。なんであんなに嬉しそうな顔をするんだろう。それが不思議で仕方ない。貰って嬉しいのは自分のほうなのに、自分よりも彼女の方が目一杯に笑っているような気がした。その笑顔を縁取っていた、鮮やかな橙のマフラーが、記憶から顔を出して彼の思考を掠める。
　彼女曰く、お揃いだというそのマフラーの、不揃いな端っこを、彼は手に取ってみた。見ちゃだめ、と慌てて彼女は奪い返した。ところどころで毛糸がほつれ、編み始めと終わりで目が詰んだり緩んだりで、模様にもまばらに間違いが見つかる。とても同じ物に思えない。自分のを先に練習台にした上でいざ彼のものに取りかかったがためである。彼女はけして口を割らないだろうが、すぐわかる。それを見たときに胸に広がった、寒い外から帰ってきて熱いココアを飲んだときのような感覚を反芻しながら、彼はいつもより心持ち早足で歩き出した。
　と、近くを歩いていた子供の一団が歓声を上げる。雪だよ。明るい声がいくつも重なる。粉雪が唐突にさらさらと、濃紺に沈みつつある夕空から滑り落ちてきた。遠くから雲が流れてくる。明日の朝には、きっと積もっているだろう。当然吸い込む空気も踏みしめる石畳も凍るほど冷たい。それでも彼は、寒いとは思わなかった。
　マフラーなんて去年も一昨年もその前だって普通に巻いていた。誰がくれようとマフラーはマフラーだ。首に巻く毛糸の編み地で、それ以上でもそれ以下でもない。だから、彼が、一昨年自分で買ったマフラーより今首にあるそれを暖かいと感じるのは、ただの気のせいだと、身も蓋もなく言ってしまうこともできる。けれどやっぱり、真新しい手編みのマフラーと、部屋に置きっ放しの黒い飾り気の無いマフラーとを取り替えたら、きっとこの帰り道は寒いに違いない。
　彼の持ち物のほとんどが無彩色なのは、黒が好きだという以上に、面倒だったからだ。これとこれは合うとか、あれはだめだとか、そんなことを考えて着る物を選ぶのが億劫だった。他人に不快感を与えなければ必要以上に見栄えを良くする必要なんてないと思っていた。白か黒か灰色のものばかり並ぶ家を、取り立てて寒々しいと感じたこともなかった。それなのにどうしてだろう？　彼女がそこに居て、かわいい色のリボンを揺らしながらちょこちょこ動き回ったりしているのを見ていると、部屋が明るく暖かくなったみたいだ。真っ暗な中に、ぽっとランタンの明かりが灯ったように。
　
　黒が良かった？
　
　彼女が尋ねる声が耳に蘇る。
　毛糸を染める直前まで迷ってたんだよと、彼女と仲良しの友人が後でこっそり教えてくれた。編み物初挑戦の彼女に編み方を教えてやったという友人は、毛糸の色も相談されたという。黒ばっかり持ってるし黒が好きなんだと思うの、でもね、でも、黒も似合ってるけど、きっとこの色も似合うと思うのどうしよう？　青きらいじゃないかな？　大丈夫かな？　少しばかり彼女の声色を真似て、友人は楽しげに話した。
　彼はまるで子供の頃のように家路を急ぎながら、首元を暖かく包むマフラーを、そっと撫でた。
　黒の方が良かったなんて、思うわけない。
　空の青と若葉の緑。明るい春の色。花が咲き始める、彼女が一番好きな季節の色。
　そのきれいな色を、自分に似合うと言ってくれたことが、たまらなく嬉しかったのに。
　粉雪の中を歩きながら彼は考える。彼女の待つ家に帰る足取りは軽い。
　本当はそのマフラーはクリスマスのプレゼントだったはずなのに、出来上がってすぐに届けに来たと教えてくれたのも友人だ。ちょうど冷え込んだ日だったからね、早く渡したかったんだよと友人は笑っていた。きっと今頃彼女は、大慌てで別のものを作っているに違いない。
　クリスマスソングが聞こえる。一つ建物を隔てた向こう、露店が出ている通りで大道芸人が演奏しているのだろう。少々外れたところでも大いに賑わうこの季節、首都で一番大きな通りには、クリスマスまで、夕から夜にかけて飾り付けの灯りが点される。おかげで大混雑の極み、例年彼は警備に駆り出されるか、そうでなければ寒さと人混みを避け、飲み物食べ物を買い込み、時には独り身の友人も一緒に家で、クリスマスを迎えるのが常だった。
　恋人が今まで一度も居なかったわけじゃあない。そういうときはどんな混雑だろうと付き合って街に出たりもしたけれど、どうしてだかそれを殊更に楽しいとは思わなかった気がする。一緒に行く相手が居ないからと寂しかったこともない。それならそれでかまわなかった。何故だろう？　彼は考えて、何となく思い当たる。昔の恋人達もお互いに結構気に入って付き合っていた、どっちが悪いとか酷いとか言うつもりは無いし、それは相手も同じだろうけれど。
　一緒に街を歩いていて何か楽しいものを見つけたときに、それを見つめながらでなく、必ずこちらを振り返って笑うのは、彼女だけだった。
　風が雪を吹き散らしながらひゅるりと抜けていった。石畳は粉砂糖をかけたように白くなり始めている。雪が降り止む気配は無い。
　寒いなぁ、と道ゆく誰かが呟いた。彼はやっぱり、寒くない、と思った。そしてふいにとても簡単なことに気付く。やっぱりこのマフラーが自分で買ったものよりあたたかいのは気のせいだ。あたたかいのはマフラーじゃない。編まれた毛糸の束じゃなく、それを編んでくれた彼女のことを考えるから、自分はこんなにもあたたかいのだ。そう、気付く。
　さっきの声は、なおも言う。はやくあたたかくなればいいのに。それには彼も同感だ。凍り付くような寒さは快くはない。彼女も寒いのは苦手で、雪でも降ろうものなら夜はストーブの前で丸くなっている。はやく春にならないかなあ。そんな呟きをこの冬何度聞いただろう。
　でも、こうやって大切なものに気付かせてくれるなら、寒さだって悪くないものかもしれない。
　大道芸人が、走っていく子供が、大人達もが歌うクリスマスソングが、雪に包み込まれながら、高らにあるいは密やかに、空に吸い込まれていく。
　今年はあの飾られた街並みに、彼女を連れて出てみようか。小柄な彼女は、今年は今までで一番きれいに飾り付けられているのに、一人じゃ人に埋もれてまともに歩けないと残念がっていたという。彼女の幼馴染みから聞いた話なので確かだろう。それでも彼女がクリスマス市を見に行きたいと言い出さないのは、彼がそういうものを特に好まないからだ。ならばこちらから言えば良い。街に出ようかと一言誘ってその手を引けば良い。きっと喜ぶ。嬉しげに笑う顔を想像する。それで自分の唇が緩むのを意識した。
　家が近付いてくる。先に仕事を終わらせて帰った彼女は、買い物済ませて待ってると言っていた。何か彼女の好きなものを買っていこうか。それとも寄り道せずにまっすぐ帰って食事の支度を手伝うか。彼女はどっちが嬉しいだろうか。どっちでも同じくらい喜びそうだ。そんなことをつらつらと考える。
　笑ってもらいたい。そのためにああでもないこうでもないと思いを巡らすだけで、とても楽しい。
　きっとそれを幸せというのだと、彼は思った。
      メリークリスマス、アンドハッピーニューイヤー！

年末年始にちなんだっぽい更新は、冬コミで出した短編詰め合わせ本のおまけ11本目と相成りました。
日付が一月も後半に足を突っ込んでいるのは仕様orz

2009年ものったりまったりとDOPとプリと剣士系を愛でていく所存です。
どうぞ今年も皆様よろしくお願い致します。
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   <title>知らぬが幸い</title>
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   <published>2009-01-13T09:40:08Z</published>
   <updated>2009-01-14T05:01:12Z</updated>
   
   <summary>忘れられないから目を逸らす　逸らしきれずに思い出す</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Crashers" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="4" label="text" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
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      　夜遅いホームの雑踏は、それなりに混み合っていながら昼よりも心持ち活気が無い。そこに録音された構内放送が被さる。最終電車が参ります、お乗り遅れのございませぬよう、という機械じみたアナウンスの後に、念を押すように、同じようなことを喋る駅員の声が続いた。日付もとうに変わっているのに『本日の』最終電車というのも、考えてみればおかしなものだと、優士はぼんやり考えた。
　お乗り遅れのございませぬよう、そう繰り返されても、彼は電車が無くなったところで何一つ困りはしないので実感が沸かない。そもそも電車に乗るのも久しぶりのことだ。外出は運転手付きの車が当たり前なのだから。今日は珍しく自分で運転して出たところ、偶然にも出先で車が故障した。タクシーも好かないので、真夜中のホームなぞに立っている。本当は電話一つで屋敷から別の車を呼び付けることもできたけれど、彼は結局携帯電話の通話ボタンを押さなかった。
　いくつもの路線が集まる駅のホームは全部が屋根に覆われて、顔を上げたところで天井を支える骨組みが端まで続いているのが目に入るだけだ。有名な建築家が設計したとかいうこの駅の造形は確かに美しいけれど、だからといって眺めていて楽しいとも思えなかった。
　いくつかの路線はもう終電も終わり、明りが落とされようとしている。ホームに残された乗客が居ないか確認して回る駅員の姿が見えた。プラスチックの座面に突っ伏すようにして眠り込む、あれは酔っ払いだろうか。お客さん、終電終わりましたよ。若い駅員は揺り起こすのに懸命だ。
　警笛が鳴って、電車が勢いを落としながらホームに滑り込んできた。空気の流れに前髪が煽られて、一瞬頬がひやりとした。酔っ払いと駅員の代わりに、最近導入されたとかいう真新しい電車の、傷の無い綺麗な硝子窓が、優士の視界を遮った。ベンチに転がる居眠り客がどうなったかはわからずに終わりそうだ。
　漏れ出す空気やぶつかり合う金属が立てる細かな雑音と共に、乗車扉が開いた。整列乗車にご協力ありがとうございますという車内放送通り、ホームに居た乗客は並んだ順に車内に入ったが、それは彼らに節度があるからというよりは、今ここにいるのが他人を押しのけるほどの気力を残していない人間だけだからかもしれない。
　椅子にはまだ空きがあったけれど、優士は入って反対側の扉のすぐ傍に行き、嵌った硝子に体重を半ば預けるようにして立った。座るのが嫌だというのでもなかったが、ほんの数駅、座ったところですぐに立つのが億劫だった。
　目が利く者なら、その様を見れば、酒の臭いが篭もる年末の終電車に一人立っているのが似つかわしくない身なりをしているとわかっただろう。上着も靴も鞄も、どれもこれも上等の誂えもので、よれた様子はどこにもなく、仕事の――少なくとも、終電まで働くことを余儀なくされる勤め人の疲労は感じさせなかった。日付も変わるほど遅くまで、やれ付き合いだ、やれ息抜きだと、飲んだり遊んだりしてきたという風情もない。誰も彼も年末調整で忙殺され、忘年会で店が埋まり始める季節、そこに立っているだけで、彼は異端だった。
　優雅に観劇や買い物など楽しんでいたかといえばそうでもない。確かにさっきまで居たのは都内でも有数の料理店だったものの、愛想笑いに見えないように愛想笑いを浮かべ面白くもない話に興じながらの食事では、どんな馳走でも美味くはない。成の阿呆が持ってくるスナック菓子の方が幾分ましだとすら、彼は思っていた。それは大抵の庶民からしてみれば承服しかねる意見であったろうけれど。
　硝子窓に水滴が付いているのはさっきまで小雨が降っていたからだろう。建物の暗い影を背景に、赤や青や緑や黄色、橙、桃、藍に白、ありとあらゆる派手色の光が現れては消えてゆく。その、窓の外を過ぎていくネオンやテールライトの流れを、窓に張り付いた丸い雨粒がたわませる。明滅の強烈さがそれでほんの少し緩和された。
　優士は濡れた硝子を透かし、外の景色が電車と同じ速度で移動してゆくのをじっと見ていたが、ふとした瞬間に、車内に焦点を戻した。外よりも明るいのにどこか薄暗く思える車内で、立っているのは彼一人だ。椅子に空きがあり、しかも終電車ならなおのこと、疲れて座っているのが当たり前だろう。大半は背広を着込んだ男で、さらにその半分以上は目を閉じていた。眠っているのか、瞼を開けているのも怠いのか。それらの人々に、優士は、散漫な視線を向けた。
　向かいの座席の右端に腰掛けた制服の学生は完全に眠りの中だ。薄く開いた唇が寝息に合わせてかすかに動くのがわかる。時間をかけて整えたのだろう髪が一束だけ癖が付いてはねていた。一体こんな時間まで何をしていたのだか。どんな厳しい部活動でもここまで遅くはなるまいに。
　その隣の若い男はどこか一点をじっと見詰めている。さて何をそんなに熱心に、と思い視線の先を辿ってみれば、そこには車内吊り広告が下がっていた。十代の少女向け雑誌の宣伝だ。若い男にとっては特に面白みも無さそうだが、はて、と首を傾げ、その広告には他とは一風変わった加工がされていることに気付く。印刷された図柄だと思っていた鞄は、よくよく見れば別の紙から切り抜いてきたもので、それを土台となる広告本体に樹脂の留め具でぶら下げてある。全員プレゼント今すぐ応募！　そんな文面が、きらきらしい箔押しで鞄の写真に重なり踊っていた。
　若い男は懐から手帳を取り出し何やら書き留め始めた。内容はどうもその広告の仕様らしい。デザイナーなのだろうかと、優士は納得した。一日の（もしかすると徹夜続きの）作業によれよれの風体で、それでも洒落たものを身につけている。肌つやに疲れは見えたが、目は生き生きとしていた。多分彼は自分の今携わっている仕事を愛しているのだろう。鼻の奥が少し痛んだ。やりがいのある仕事というありふれた言葉は、優士にはあまり快いものではない。
　一心にメモを取る男から目を背けるように、優士は自分の立っている側の座席に視線を向けた。彼が立っているすぐ傍に、文庫本を読みふけっている男が居た。見た目は若干優士より年下くらいか。本に落とす眼差しの真剣さに、てっきり小説本文を読んでいるのかと思った。しかし開かれていた頁は、後書きのさらに後に挟み込まれているような、他の作者のものも含めた既刊紹介だった。手にした話は既に読み終えて、次に買うものを吟味しているのだ。その真剣さに、ほんのわずか、笑ってしまう。ああきっと本を読むのがとても好きに違いない。笑って、しまう。今度こそ優士は、雑踏の中に見たものから、目を逸らせなくなった。
　少し似ている気がした。髪型とか服の趣味とか横顔とか。そのかすかな類似が、目の前に本人がいるように錯覚させる。いかにもありそうだ、奴が終電車で文庫本を読みふけっているなんて。名前を呼びそうになる。すんででそれを押しとどめる。だが一度意識に上った記憶を再び見えない場所に追いやるのは難しい。あいつも本が好きだった。遠くなりつつある記憶の映像を、声を言葉を、彼は否応なしになぞる羽目になる。
　もう何年も経った。正確な年数は数えなければ弾き出せない程度には時間が過ぎた。思い出すことも随分と減った。だが忘れられはしない。そのことに気付かされる。薄皮一枚隔てたように遠いそれらの記憶は、ただ遠いだけで、今なお鮮明だ。
　電車に乗るのなど何年ぶりだろう。出歩くときはいつも車だ。でももしかしたら。こうやって人混みの中を歩いていればもしかしたら錯覚ではなく別人ではなく、目の前を横切る瞬間に出くわせたのではないかと、どうしようもない『もしも』に取り憑かれる。この人混みでたった一人と行き会う。限りなく、ありえない。そもそも同じ街に住み続けているのかすら危うい。偶然を期待するには余りにも薄い可能性だが、薄いゆえに偶然以外何も期待できないのも確かで、同時に今までその偶然に巡り会う機会すら無くしていたことに彼は、今更気付く。肋骨の内側を心臓が叩いた。
　それは酷く怖ろしいことだ。あったかもしれないという、曖昧でもう何の意味もない可能性の残滓は、残滓だからこそ余計に彼の焦燥を煽るのである。あった、なら素直に悔やめばよい。無かった、なら忘れてしまえる。あったかもしれない、だから悔やみきれない。どうせそんな都合の良い偶然なんて起こりやしないまるで宝くじを期待するようなものじゃあないかとどんなに自身に言い聞かせても、でももしかしたらといくらでも仮定が芽を出し葉を開き、そして蔦のように細く長く伸びて彼を絡め取り離さない。
　電車が駅に止まった。数人が降り、数人が乗る。その隙間から、声が聞こえてくる。
　
　お乗り遅れのございませぬよう。
　
　組んでいた腕を解きそうになった。それは思わず耳を塞ごうとしたからだ。
　彼は背を押されたように閉まりかけたドアに身体を滑り込ませ電車を降りると、ホームを小走りに通り過ぎて階段を駆け上り改札を通り抜け駅を出る。終電の過ぎた消灯間近の構内は閑散として静かだ。もう乗客を急かす放送も無い。それなのにさっきとは打って変わったこの追い立てられるような心持ちはどうだ。
　軽く首にかけただけのマフラーが滑り落ちそうになった。携帯電話を上着のポケットからもどかしく引っ張り出す手が震えていた。電話に出た執事に運転手を寄越すように言う声は至極冷静だったのが、いっそ滑稽だ。行き先とも違えば最寄り駅でもない半端な場所に居る主人の寄る辺無さを、執事は感じ取ったか、それは定かではない。わかりましたと丁寧な口調の返事を聞いて、優士は電話を切った。
　吐いた息が白く曇る。目の前をそれよりも白い小さな欠片が横切る。地上から照らされる夜空を見上げた。雲もないのに雪がちらついていた。寒いはずだ。これは初雪だっただろうか？　それとも二度目か三度目か？　記憶に無い。あの年のは驚くほどはっきりと覚えているのに。あいつは雪だ雪だと五月蠅く騒ぎ、寒いと悪態をつくくせに成と二人して庭に出て、挙句自分までも引っ張り出した。あの寒い朝が、十二月の終わりだったことさえ、覚えているのに。
　呆然として、優士は息を吐く。手袋をしているのに指先は冷たい。瞬く目蓋と眼球の隙間を満たしていくものが何なのか、彼は嫌になるほどよく知っている。
　
　お乗り遅れの、ございませぬよう。
　
　耳の奥で声が響く。
　彼の中で半端な後悔が切れ切れに浮き上がっては沈んでいく。悔やむのは気付いてしまったことか、それとも今まで気付かずいたことか。しかし実のところ気付かずにいたのは必然だ。だって自分が目を逸らしていたのだから。ここにいないことよりも探して見つからない方が怖かった。永遠に失われたと思い知らされるくらいならどこかにいるのだと思い続けていられるほうが良いのだと。けれどどうだ、記憶に眠る面影をほんの一瞬揺り起こされただけでこうも狼狽える情けなさは。
　人影まばらな暗い駅の片隅で、彼は震える両手を握り締め立ち尽くす。
　
　何に乗り遅れているのか知っている。
　そして今なお一歩目を踏み出すことを逡巡している、けれど。
　
　どこに居る？　何をしている？　息災であるか？　それとももうどこにも居ないのか?　
　頭蓋の中を堂々巡る問いの答えを、知るも知らぬもそれぞれに平穏でそれぞれに不幸だ。ならばいっそ知る不幸を選んでしまえと、心で何かが囁いた。
      書きかけたのは11月だったらしいが
PC組み換えのあとコミケ地獄に突入して現在に至る
新年早々全然清清しさの無い更新ってどうなんだ自分よ
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   <title>「恋するDOPと愉快な仲間達」　序　サンプル</title>
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   <id>tag:08140305.com,2008:/main//5.227</id>
   
   <published>2008-12-20T03:18:38Z</published>
   <updated>2009-01-09T07:51:59Z</updated>
   
   <summary>引きこもり悪魔、首都に飛ばされる</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Book Sample" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="4" label="text" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      ※キャラの名前が若干仮名です
※やっぱり誤字脱字変更箇所がすごいはずです＿ノフ○
　
ご了承の上ﾄﾞｳｿﾞｰ
　
　
-----------------------------------------------------------------------------



　ある晴れた昼下がり。首都プロンテラは今日も大賑わいである。露店立ち並ぶメインストリートは盛況で、道の端から端まで活気に溢れている。折しも季節は春、街路樹に新緑が芽吹き、清々しい空気で一杯だ。
　その片隅で、清々しさとは対極の、怨嗟の呟きを漏らすものが居た。
「…………くっそ忌々しい、さんざん荒らした挙げ句に何でこんな」
　大通りから一本折れた少し細い道、人通りの無い隅っこに固まって植えられた植栽のあたりから、小さな声が聞こえる。一見植栽しか無いのだが、よくよく見ると、植え込みの細い枝が数本、ぽきぺきと折れてしまっている。誰かが倒れ込んだ跡のようだ。で、その倒れ込んだ場所で、ぶつぶつ悪態を吐いているらしい。
　葉と枝に完全に埋もれた状態で倒れているのは、一見、少年だ。まだ伸びきらない背丈に、細さが残る体付き。うつぶせに倒れているので顔は見えないが、髪は心持ち短めの金髪である。
　だが。
「人間どもめ、いい加減にしろよもう……」
　その言いぐさからして、当人は人間ではないのがわかる。
　よくよく見ると、耳が少し尖っている。細かい枝に絡まれつつやっと起こした顔には千切れた葉がちらほら付いているが、その目は鮮やかな朱で、唇からは人より尖った犬歯がかすかに覗いている。どう見ても魔物の類である。
　彼はいわゆる悪魔だ。普段はゲフェンの地下に棲んでいる。一応名前もある。レニ、という。人間は誰もそれを知らないので、人の世界ではそうは呼ばれていない。
　今一番人間の間で定着している呼び名は、『ドッペルゲンガー』だ。それは名前というよりは、写し身の総称のような意味合いなので、当然彼自身はそれが気に入らない。自分の名前を勝手に変えるなと日々思っている。
　さて、ゲフェンの、それも地下洞窟に棲んでいるレニが、どうしてまたこんな首都の往来でゴミのように転がっているのか。
　ゲフェンの地下には、古い街のような大きな遺跡が残っている。それを目当てに、人間がやって来る。古代の遺跡の発掘だか考古学だか宝探しだか知らないが、我が物顔でやって来て、片っ端から荒らし回られてはたまらない。せめて大人しく遺跡だけ漁っていてくれればまだ黙って見逃すものを、ついでにあたりをうろつく魔物までタコ殴りにするのだから見過ごせない。平穏な地下の安らぎが台無しである。というわけで、レニは、その手の集団がやって来たら、少々痛い目に合わせて地上に追い返すのが常だ。
　さっきも彼はいつものように、侵入してきた人間を追い出していた。日々のルーチンに組み込まれ気味の、決まり切った作業だ。ところが今日は、不測の事態が起こってしまった。
　彼の眷属として付き従う、ナイトメアという名の魔物多数と、人間大勢とが、ごっちゃの塊になって混戦を繰り広げていた。そこに、劣勢と踏んだ人間のプリーストが、地上に戻るための転移魔法陣を、あろう事か戦陣のど真ん中で開いたのである。大騒ぎだ。魔法陣の目映い光さえ、人と魔物の塊に隠れてほとんど見えやしない。
　魔物と人間入り乱れ、それでも人間はどうにか魔法陣に移動して、順に帰って行った。それで終われば一応は無事に収束したものを、最後に残ったそのプリーストが、またやらかした。
　レニは姿だけ見れば限りなく人に近い。しかも今日は、人間達を掃除しに突っ込んでいったとき、最初から周りにナイトメアを多数従えていた。ナイトメアは図体がでかい。よって、その群れの真ん中にいると、普通の人間サイズしかないレニは、埋もれて見えなくなるのである。というわけで、本日交戦した人間達の内半分くらいは、今自分が戦っているのは馬の魔物だと思っていた。プリーストもそう考えた一人だった。
　おまけにそのプリーストは、メンバー全員の顔を覚えていなかった。それはまあ仕方のないことである。寄せ集めの雇われ冒険者に期待してはいけない。
　そんなわけで。
　最後、自分が帰還する前に、積み残しはないかとあたりを見回したプリーストは、ナイトメアの塊から少々はみ出していたレニの後ろ姿を見つけ、顔も姿もまともに確認しないで、何やってんださっさと乗れと、消えかけの魔法陣に向かって蹴り飛ばしたのだった。
　やれやれ終わった終わったと気を抜いていたレニは、物の見事にすっ飛び、首都プロンテラへと続く魔法陣にホールインワン。
　そして今に至る。
　首都である。人が多い。とにかく多い。普段から人間には散々な目に合わされているレニである。人の前になぞ、正直わざわざ出て行きたくない。大体地下の薄暗いところでならまだしも、この白昼堂々衆目の前に出て行った日には、程なく魔物と気付かれて、袋だたきに遭うのがオチであろう。それは勘弁して頂きたい。いくら高位悪魔、少々力を削がれても時間をおけば元通りとはいえ、寄って集ってボコられれば痛いものは痛いのだ。
　不幸中の一縷の幸いといおうか、彼は、プロンテラに出た後も、プリーストに蹴っ飛ばされた勢いが残っていたので、魔法陣から転がり近くの植え込みへと突っ込んだ。それ自体は高位悪魔としては大変情けない有様だが、そのおかげで、どうやら人目からは遠ざけられているらしい。
　夜になって人通りが無くなったら外に出て行って転移の術を使おう。それまでは隠れていよう。そう決めたレニは、植え込みの中でひっそりと人間への呪詛を垂れ流している。他にやることが無いともいう。
　
　――こんなとこ奴らに見られたらたまったもんじゃない。
　
　植え込みで小さくなって身震いするレニである。
　奴らとは、彼の住処、ゲフェンの地下に居る仲間達のことだ。本来、魔族としての位階から考えると、彼はそこで最上位に位置するはずなのだが、今のところ、あまり権力を持っていない。
　彼は悪魔としては結構若い方だ。人間よりはずっと長く生きているものの、悪魔の中では若輩、さらに言葉を選ばず言えばひよっこである。言動も、見た目相応の人間と大差なかったりする。それで彼は、同位の悪魔達のみならず、本来なら遙かに格下の連中にまで、お子様扱いされているのだった。いつ何時も完全に服従してくれるのは、直接の眷属であるナイトメアくらいのもの、という悲しさ。
　揶揄を無視して威厳を保っていればその内からかわれなくなるというのに、そこは悲しきかなお子様、ついムキになってしまう。よって彼へのちょっかいは収束する気配を見せず、人間と仲間の両方に脅かされる日々なのだ。
　実は日課の人間掃除も、人間にボコられた悪魔達から物凄い勢いで文句を言われたために彼の仕事に組み入れられたのだったりする。遺跡とか宝なんて自分たちにはどうでも良いわけだし、人間が荒らしに来てる間はそこに近付かなけりゃいいじゃないかとレニなどは思うわけだが、悪魔達曰く、可愛い部下が酷い目に遭ってるんだから一矢報いてくるのは上司の役目だ、とのこと。可愛くもなければ部下らしい態度も取ってないだろお前ら、というレニの意見は黙殺された。つまりはそういう扱いだ。
　帰ってもまたそういう扱いが待っているだけなのだが、それでもまだ、まだマシだ。植え込みの中でゴミのように転がっているだけの現状よりは。さっさと帰りたいという思いで彼の頭は一杯である。ちょっと泣きたくもある。何でこんな目に何でこんな目に何でこんな目に。ぶつぶつ呟く姿は、とても強力な悪魔には見えない。
　と、そのとき。
　微妙な気配を感じた。
　身体をねじって、道の側に顔を向けてみると、こっちをじっと見ているらしき子供がいる。気のせいだ、枝と葉で完全に隠れてるんだし、自分に向こうの様子がわかるのはある程度ものを透かして見られる目をしてるからで人間にそんなことはできないんだし！　焦るレニは努めて落ち着こうと心がけたが、
「なにかいるの？」
　子供の言葉で、完全にその希望的観測は打ち砕かれた。
　ヤバいマジでヤバい、どうするよおいどうやって隠れるよ。レニは心臓（そんなものがあるとするのなら）が口から飛び出す思いで、必死に考えを巡らせた。
　人間にも、たまに勘の鋭い奴というのはいる。幼ければ余計。多分姿が実際に見えているわけではなくて、何かいる気配を感じ取っているのだろう。子供は、一緒にいる大人と繋いでいた手を離して、とことこと近寄ってくる。
　この姿のままでは極めて不味いのは自明だ。子供がレニの風貌のおかしさに気付かなかったとしても、子供が植え込みの中身と話し始めたことを不審に思った大人が様子を見に来れば終わりだ。さてどうする。
　レニは、まず、何かに化けようと考えた。彼は固定の姿を持っていない。好きな格好に変われる。人に限らず、動物でも、魔物でも。ただ、ちょっとばかし変化が下手くそなのである。なかなか思った通りの姿にならない。それをまた仲間にからかわれるのが嫌で、普段はずっとこの少年の姿で居る。
　普段使わない能力は存在を忘れる。それで、ここに隠れたとき、自分が姿を変えられるということに、さっぱり思い至らなかった。レニは、最初っから目立たない動物にでも化けておけば良かったと、つい一時間ほど前の自分の迂闊さを呪った。
　しかし今はとにかく眼前に迫る問題の解決が先である。過去の自分を呪詛するのはこれを切り抜けてからで良い。植え込みの陰に転がっているものとして、何なら怪しまれずに済むか。
　何か、小動物？　と、まずレニは考えた。野良猫とか野良犬とか。大きな街ならたくさんいるだろう。焦って彷徨う視線の先には、露天商が店先でマスコットにしているリスが見えていた。ああいうのでもいいかもしれない。その一方で、人形とかぬいぐるみの類でもいいんじゃないかとも思った。子供が忘れてそのまま的なイメージで。
　迷っている間にも子供は近付いてくる。見つかる、早く、と、さらに焦った。ええいもうとにかく化けてしまえ。子供の視界に入る前に、レニはとりあえず姿を変えてみた。
　実は、レニが化けるのが苦手なのは、こういう思考に起因する。自分がなろうとするものだけを、強く思い描けばいいものを、何やら他のものまでついでに想像するから、変な具合に混ざった代物になってしまうのだ。逆に言えば、彼のいつもの少年姿は、それこそが彼の本質を最も良く現しており、深く考えることも念じることも無く維持できる姿、ということなのだろう。本人はその解釈を承知しないだろうが。何故なら、自分がひよっこであると認めることになるからだ。それはまあおいといて。
　化けてみた結果。
　レニの姿は、元の姿をちびっこくデフォルメして齧歯類っぽくアレンジした、ぬいぐるみだか人形だかよーわからん物体へと変わった。いや、動けるから、生き物というべきか。なんだか身体がふかふか柔らかい。おまけにまるっこい。幼児というか仔ネズミというか、まあ要は、幼い子供のまるまるふにふに度合いが前面に押し出された感じ。そして耳としっぽ付き。
　なんだこれ。もう、叫ぶしかない。いや叫んだら怪しまれるので、声も出せない。心の叫びである。
　無言であわあわと慌てつつも化け直そうとしたところに、植え込みの中へひょいと手が伸びてくる。
　小さな手は、盛大にパニック状態のレニを、子供特有の無遠慮さでわしっと力強く掴み、有無を言わさず枝の隙間から引っ張り出した。レニの頭に引っかかって、小枝がぱきぱきと折れた。勿論その枝はレニの髪に刺さりっぱなしだ。
　植え込みの外に出た瞬間、明るい陽光がぱっとレニの視界を遮った。つい、まぶしさに目を閉じ頭を抱える。子供は首を傾げているようだ。本当に心底万事休す。レニは冷や汗を押しとどめることが出来なかった。せめてこんな妙な姿でも、動きさえしなければ、変なぬいぐるみが捨てられていた程度で済んだものを、動いてしまったのではもうどうしようもない。造形も怪しければ挙動も怪しい人形を、果たして子供はどうするのか。もうだめだ。レニは祈るような気持ちで――この場合、祈る先は、何になるのだろうか？　神ではあるまいが――丸く縮こまった。
　もふもふしたまるっこい塊と化したレニを、子供はしばらくしげしげ眺めていたが、ややあって、ててっと駆け出した。レニにとってはさらなる万事休す。こういう場合、子供仲間か保護者のところに持って行って見せるのが定番だ。今回は後者が合致した。
　子供はさっきまで手を繋いでいた大人のところに走って戻り、抱きかかえたレニを見せて、こう言った。
「おにいちゃん、迷子のホムちゃんがいるよ！」
　
　は？
　
　レニは言葉の意味がいまいち飲み込めずに固まった。怪しいものが居たと突き出されることを覚悟していたが、そんな様子はない。そもそも、怪しいと認識してもいないようだ。
「ありゃ。確かに周りに主人っぽいのはいないなあ。人型か」
　恐る恐る目を開けてみると、目の前には、緑がかった青い目に銀髪の、二十歳前後の男が居た。この上なく妙な姿のレニを怪しむでもなく、興味深そうに観察している。
「マスター、小動物も混ざっているようですよ。ハムスターか何かですかね？」
　その後ろから話しかけてきた長身の男を見て、さらにレニは驚いた。男は作り物のように美しい顔をしている。はっと息を飲むほどだ。黒一色のタイトな服がよく似合う。しかしその皮膚にはほとんど赤味がさしていない。のみならず、目も髪も鮮やかな緑で、その身体には無数の蔦が巻き付いている。髪の蔦は白い薔薇がいくつも咲き冠のように華やかだ。
　一瞬、自分の仲間か？　とレニは思った。しかしすぐにその考えを否定した。見るからに人ではないが、かといって自分たちほどの濃い魔力も感じられない。
　迷うレニをよそに、三人は（いや、二人と一匹と言うべきなのだろうか、人ではないのだから）勝手に話を進めている。
「ホムちゃんじゃなくて、ハムちゃん？」
（誰がハムちゃんだ、誰が）
「いや、ホムちゃんで合ってるよ、ハムちゃんのホムちゃんというか。しかしどうしたものかな、周りに主人が居ないんじゃ放置するわけにもいかんし」
（だからホムちゃんでもハムちゃんでもないっつうの）
「リーネ様、そんなボロボロのホムンクルスを抱きかかえていてはお洋服が汚れます。さ、こちらに寄越してください」
（ボロボロで悪かったな！　汚れたのはお前らの同胞に蹴飛ばされて植え込みに放り込まれたからだ！　……ん？　ホムンクルス？）
　逐一心中で突っ込むレニであるが、ふと、聞き覚えのある単語に耳をとめる。そういえば、最近人間が人造生命を作り出すことに成功したらしいとか、仲間の一人が言っていた気がした。それで、この三人が自分を怪しまないことについて合点がいった。
　人造生命は、全く新しい命を作り出すわけではなく、既存の生命の一部を寄り代に構築されることが多いらしい。神ならぬものの手ではそれが限界だろう。そして、出来上がった人造生命は、材料に使った生き物の姿形や性質を多かれ少なかれ反映するとか。してみると、この綺麗な顔をした男は植物を元にしたホムンクルスで、銀髪の男がその主人かと、レニは納得する。
　――で、こういうものを見慣れた彼らは、齧歯類と人間がほどよくミックスされた見た目になってしまったレニも、同じくホムンクルスだと認識したのだ。それは果たして、レニにとって、幸なのか不幸なのか。
「やだ、わたしが見つけたからわたしがお世話する！」
「まあまあフロル、リーネの好きにさせてあげなよ。大人しい子みたいだし大丈夫だろ」
「そんなことを言っていてリーネ様に噛み付きでもしたらどうするんですか、マスター。あなたはベタ可愛がりの過保護のくせに、そういうところは考えなしですね。ほらリーネ様、それを私に」
　あくまでレニに対する警戒を崩さない植物型ホムンクルス――名前はフロルというらしい――は、どう行動すべきか決めあぐねて呆然とするレニを、子供の――リーネの腕から抱き取ろうと腕を伸ばした。
　が。
「やだったらやだー！」
　今のレニの、悪魔の威圧感とか威厳とかには一切無縁のまるっこい見た目は、確かに非常に子供受けするものだ。どうやらレニがいたくお気に召したらしいリーネは、レニを抱きかかえていた腕に思いっきり力を込めて、それに抵抗した。
　元の姿ならばともかく、このぬいぐるみサイズで力一杯絞められるのはさすがにきつい。ぐぇ、という、レニの小さなうめき声が、リーネの服の袖に吸い込まれる。
「ああこらリーネ、もうちょい優しく扱ってあげないと、ホムちゃん潰れちゃうよ」
　ホムちゃんじゃないってば、という主張は、空しくレニの口の中で消えた。本気で苦しい。思わずじたばたともがいてしまう。
「わかりましたリーネ様、もう取ろうとしませんから、ちょっと緩めてやってください」
　窒息寸前になってもレニがリーネに危害を加えないのを見て、フロルも折れたようだ。それでリーネは、やっとレニを抱える腕から力を抜き、人形を抱っこするようにレニを抱き直すと、にっこり笑いかけた。
「よろしくね、ホムちゃん。わたしはリーネ。お兄ちゃんはヴィセスっていうの。この子はフロルよ」
　そこで初めてレニは、リーネの顔をはっきりと見た。大きな薄緑の目と、ふわふわの髪、薔薇色のほっぺが愛らしい、可愛い女の子だ。ちょっとどっきりするレニである。
　レニは現世に具現してこの方、人間といえば、彼の住処を漁るか、魔物だなんだとけたたましく叫んで襲ってくるか、どちらかしか目にしたことがない。ついでにその大半はいかつい男である。であるからして、人間というのは鬱陶しく腹立たしい生き物だという認識しか持っていなかった。だがここにきてちょっと考えを改める気になった。今までえらい目に遭わせてくれた冒険者どもは嫌いだが、この子はちょっと好きかもしれない。
「ねえ、あなたのお名前は？」
　リーネの顔にぽけっと見入っていたレニは、にこにこ笑うリーネに尋ねられて、素直に名前を答えた。
　いや、答えたつもりだった。
　
「ちー！」
　
　――出てきたのは、何だかとてもハムスターっぽい妙な声だった。
　咄嗟に声を出したつもりが、さっき化けようとしたときの名残なのかなんなのか、うっかりハムの鳴き真似になったらしい。あんまりな情けなさに硬直するレニの心中露知らず、リーネと他の二人はそれで納得してしまったようだ。
「ちー？　お名前、ちーっていうのね」
「やっぱハムスターかねこれは」
「そうじゃないですか？　いかにもそれっぽいですし。今度仲間に、ハムスターのホムンクルスで迷子になったやつはいないか尋ねてみます」
　かくしてレニは、不運な偶然が重なりまくった末、プロンテラ在住の兄妹とその従者に、『ちー』として認知されてしまったのである。
「ちーのご主人様、ちゃんと見つかるといいね！」
　リーネは、自分が抱きかかえているまるっちいぬいぐるみのようなもののほうが、むしろご主人様的立場にある強力な悪魔だとは夢にも思わず、無邪気に笑っている。
「まあ、見つからなければうちで面倒見てやると良いさ。フロルもいるし」
　銀髪の青年はぽんぽんと妹の頭を撫で、その片手を取って、子供の歩調に合わせ歩き出した。
「帰ってご飯にしようか。その子は何を食べるのかな」
「ひまわりの種かなー」
「それは純正のハムスターの食べ物です、リーネ様」
　平和な昼下がり。首都の時間はゆったりと流れている。
　そんなのんびりした空気の中で、リーネに抱かれたレニは、一人途方に暮れるのだった。
      もう見切り発車でサンプル出してやる＼(＾o＾)／
当日机に無かったらすんませんすんませんすんませｎ
とりあえずFakeかこっちのどっちかは……きっと……多分、いや、うん、できればorz

ヘタレなDOPのアホ話です
珍しく一般向けですよ奥さん
どうした私
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   <title>「スターゲイザー3」　ホワイトデー悲喜交々　サンプル</title>
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   <published>2008-12-19T01:41:33Z</published>
   <updated>2008-12-19T05:04:32Z</updated>
   
   <summary>いつにも増して馬鹿分多めでお送りします</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Book Sample" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="4" label="text" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
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      　もしも誰か意中の人間がいるのなら、バレンタインは一大イベントであるのは間違いない。渡すにしても貰うにしても、そのシビアさたるや、戦争だと言っても良いくらいだ。
　　そしてこういう大イベントというのは、何もバレンタインに限ったことではない。各個人の誕生日やクリスマスなど、カレンダーには押さえておかねばならないイベントデーが要所要所に配置されている。
　さて、バレンタインデーがあるのなら当然この日も時間差攻撃で抱き合わせ販売のようにやってくる。
　いわゆる、ホワイトデーというやつである。
　バレンタインデーに曲がりなりにもプレゼントを貰うことが出来た、幸せな人間の為だけの限定イベントだが、内容はバレンタイン以上にシビアである。女性の評価というのは恐ろしい。特にライバルが多いと目も当てられない。チョコを貰えた幸せに浸る暇も無く、並み居る競争相手の動向に目を光らせ、たくさんの贈り物の中でいかにして自分のに眼を止めて貰うかに尽力せねばならない。その知恵と財力のせめぎ合いは、見ている分には面白い。見ている分には。しかし当事者達は真剣である。笑ってなどいられない。
　ともあれ、そのホワイトデーがやって来た。
　正確に言うと、当日ではない。十四日は一昨日だ。バレンタインデーにチョコを貰えた面々は、義理本命問わずお返しに戦々恐々の様であった。一部の人間を除いては。
　その『一部の人間』というのが、一月前、ノイエにチョコ（というか、大半はクッキーやケーキなどのお菓子）をもらった面子である。
　何故かというに、ノイエは一週間ほど前から遠方の修道院のほうに出向いており、今日帰還の予定だった。つまり誰もまだお返しを渡せていない。彼らにとっては、ホワイトデーはまだ終了していないのだ。
　というわけで、今日の騎士団には、一触即発な空気がごく一部分で漂っている。
　
　
「……これは凄まじいな……」
　朝一番、個人に与えられているロッカー付近でため息混じりに呟いたのはレーベンだ。ちょうどノイエの割り当てあたりが素敵にカオスと化している。当人に真っ向渡す勇気が無かったヘタレどものお返しが原因だ。
　しかも定番のキャンディーやらクッキーやら、『食って終了する』ものがあまりない。ラッピングと形状から察するに、服だったり鞄だったり靴だったり、色々と服飾雑貨が混ざっている模様だ。お前さん達普段ほとんど会話していないくせにどうやってあいつのサイズをリサーチしたんだと、レーベンは真剣に聞いてみたくなった。そして一瞬後にその思いつきを却下した。裏で情報が売られているとかいう漫画のようなオチを想像したからだ。まさかそこまでやらんと思いたいが、本当にそんな答えが返ってくる可能性も否めない。あまり聞きたくない事実は最初から触りに行かないに限る。
　ちなみに、そんなことになっているからこそのカオスでもある。各人お菓子一袋程度なら、ロッカー前をはみ出してまでうずたかく積まれることはあるまい。嵩張る品々が混ざりまくっているからこそ、占有領域何処吹く風で溢れ出してしまっているのだった。
「これ、本人が見たら相当驚くんじゃないか」
　レーベンの言葉に、
「むしろ何で自分のところにこんなものが届いているのかわからないでスルーする」
　返答したのは、近くの自分のロッカーに着替えやら何やらの荷物を詰め込んでいる最中のシャルスだった。
「というと？」
「だってノイエの感覚で言ったら、手作りのケーキやクッキーにお返しもらうこと自体、期待も何もしてないのに、そこへこんな数十倍返しとかあり得ない。絶対何かの間違いだと思われる」
「なるほど」
　さすが付き合いが長いだけはある。おそらくは似たようなことをやって何か言われたことがあるんだろうなと、レーベンは温く笑った。ついでに、同じことをやらかして壮絶にスルーされそうな某友人の顔を思い浮かべたので、笑みはさらに生温くなった。
　ちなみにレーベンも、お菓子を貰った手前、きちんとお返しを用意している。しばらく前に、読みたいのにどうしても見つからないと言っていた本を確保しておいた。値段も程良く見合っている。あまりに喜ばれると、どこぞの二人の八つ当たりが怖いのだが、当人の性分で、贈り物は本人が喜ぶものをあげてこそ意味があるというポリシーを曲げられないからして、その辺で売られているホワイトデー専用パッケージのキャンディの類で済ます気にはなれないのだった。ある意味厄介な性分だ。
「あいつ何時くらいに帰ってくるんだっけか」
　一応リボンを掛けて貰った包みを取り合えず自分のロッカーに放り込みつつ、レーベンは時計を見た。
「確か、遅れなかったら昼過ぎって言ってたよ」
　自分に全く関係のない出張の予定をきっちりチェックしているシャルスである。ノイエとは別の意味でマメなやつだとレーベンは（ある意味）感心した。
「それじゃまあ午前中は訓練だな。お前、プレゼント渡しに行きたいんだったら、午後は休みにしてやってもいいぞ」
　レーベンの言葉にシャルスは一瞬心を動かされたようだったが、
「……いい……」
　思い直した様子で、若干憂鬱そうに返答した。
「珍しい。ノイエのとこにいけるとなったら何を天秤にかけてもそっちを選ぶと思ったけど」
「…………だって、ノイエ、今年、物凄い量のお菓子配りまくってたから、帰ってきてしばらくは、絶対傍まで近づけない…………」
　納得いったレーベンであった。シャルスも年を考えればけして小さいわけではないが、騎士団の連中というのは背が高いのが多いのだ。発展途上のシャルスでは張り合えまい。人だかりに飲まれて潰されるのがオチであろう。夕方辺りまで待つのが得策である。
「お前、戦略的撤退も一応できるようになったのね」
　褒めたつもりのレーベンだったが、
「そりゃどういう意味だよ！」
「いやそのまんま」
　シャルスの微妙なプライドを逆撫でするだけに終わったようである。
　そんなこんなで、午前は何も起きずにのどかに過ぎた。
　問題が起こったのは、午後にノイエが帰ってきてからであった。

      後は本に続くｎ(･ω･)ｎ
こっちはほぼ確実に出せそうです
　
超季節はずれですが2でバレンタインネタ出した後
♂萌えオンリーで続きを出せなかった上夏コミ落ちたので仕方ない
というか3月にROで出られるようなイベントって無いねどっちにせよ……
　
てなわけで今回は短編アホ話三つです
主人公のはずなのにシャルスいいとこなしな気がします
まあ次に期待（あるのかよ
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   <title>「FakeLayerd」　序</title>
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   <published>2008-12-13T03:34:27Z</published>
   <updated>2008-12-19T03:01:41Z</updated>
   
   <summary>晴天　賛美歌　そして出逢いは訪れる</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
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      ※登場人物の名前がまだ仮名です(´Д`)
※誤字脱字その他修正箇所がまだ大量にあるかと思われます
※花の名前という設定はいうまでもなく捏造です　そんな花たぶん無いです
　
以上ご理解の上どうぞ
　
　
　
-------------------------------------------------------------------
　
　
　
　雲一つない晴天だ。出店が立ち並び、大通りを賑やかに埋め尽くしている。客を呼び込む明るい声が聞こえる。そこここで芸を見せる大道芸人の周りには、老若男女問わず人が集まり、目を輝かせて見入っている。普段から人の多い首都が、いつにも増して騒がしい。
　その、密度の濃い人波を歩いていく、若い男がいた。淡い金髪に真っ黒な瞳、十二分に整った顔立ちと均整の取れた身体つきが人目を引く。だが、視線を泳がせながら、華やかな祭りなどどうでもよさげにそぞろ歩く様は、浮かれて歌い踊る群衆のただ中においては一種異様だ。漂ってくる良い香りにも、肩を掴まんばかりの客引きにも、目をくれる様子は無い。
　と、飲み物を売り歩いていた青年が、背中から男にぶつかった。
「失礼！　怪我はないかい？」
　溢し掛けた売り物を慌てて支えると、赤毛の青年は明るい声で問いかけた。
　金髪の男は立ち止まり、赤毛の青年を一瞥した。その視線には、青年に対していささかの関心も含まれてはいなかったが、青年はお構いなしに話しかけた。それは青年もまた、相手にさほどの興味を抱いていなかったことの表れとも言える。もし彼が、その端正な顔立ちの男をもう少し注意深く見ていたならば、男の所作に違和感の一つでも感じただろう。
　この人混みでは、少々ぶつかり合うのは仕方ない。いちいち謝っていては前に進めない。それなのに何故青年はわざわざ詫びたのか。謝罪なしでは怒り出すだろうと確信できるほど、強く突き当たったからだ。
　彼は気の良い薬屋で、客あしらいが上手いので評判だ。相手を宥める匙加減をよく心得ている。詫びておくべきだと彼は思った。今日は人の店を手伝っているから尚更、揉め事に巻き込まれるわけにはいかないとばかり、考えるよりも先に言葉に出した。相手が怒り出すか否か、見極めることを放棄した。だがそのとき、ぶつかられた当の本人は、大の男に勢いよく突き当たられたにもかかわらず、それを一切意に介さず、すっくと立ったまま、青年に視線も向けず歩き去ろうとしていたのだ。普通の人間なら、少々よろめくぐらいしても、おかしくなかったろうに。
「あんたこの辺じゃあまり見かけない意匠の服だね。他の街から来たんだろ？　この人混みの中慣れない街を歩くのは大変だろうけど、折角の祭りなんだし楽しんでいくと良い」
　赤毛の青年は、自分が持っていた売り物を一つ、男に手渡し、にこやかに笑った。男は黙ってそれを受け取った。紅茶と果汁を使って作った飲み物だ。この陽気が嘘のように、ひんやりと冷えている。果物が飾られた入れ物の表面は、結露に覆われていた。まじまじとそれを見詰める男に、青年は言葉を続けた。
「良い感じに冷たいだろ？　知り合いの魔法使いどもに魔法で冷やさせてるからね、しばらくは保つよ。ぶつかっちゃったお詫びにとっといて」
　男の、飲み物に向けた視線が、妙に物珍しげなのは、氷も無いのに冷えている物を手渡されたせいだと、青年は思った。尤もな思考だった。この首都では、果物や紅茶など珍しくも何ともない。それを使って作った菓子や飲み物も同じだ。市場に行けば、この国のありとあらゆる農産物が、所狭しと積まれている。驚くのは余程の田舎者くらいだ。そして男は首都の者では無いにしても、田舎者には見えない風体をしていた。
　男は、上等の服を纏い、柄や鞘に優美な細工の施された剣を腰から提げて、しゃんと背筋を伸ばしていた。その姿は美しく、田舎臭さなど微塵も感じさせなかった。だから青年は、男が珍しげに見ているのが果物だとは、思いもしなかった。
　男が顔を上げたところに、青年は屈託無く笑いながら続けた。
「ああ、予定が無いなら大聖堂に行ってみたらどうだい。今なら式典の真っ最中だ。式自体はまあどうでもいいけど、賛美歌の演奏は見事なもんだよ。俺も聴きに行こうかと思ってるんだけど」
　数年に一度、大聖堂では大々的な式典が執り行われる。内外からの来訪者は相当なもので、人出を当て込んだ露店もたくさん立ち並ぶ。主宰する国教会にとっても、警護を担当する騎士団にとっても、一大行事となる。
　今日は、その祝祭の中日である。今、聖堂では、ちょうど叙勲式が行われているはずだ。功のあった者に、大司教から勲章が授与される。青年の言った式典とはそれのことだ。勲章など縁の無い人間にとっても、大がかりな叙勲式は見物に値する催しだった。
　青年は、愛想良く大聖堂への道を簡単に説明し、じゃあよい旅を、式に行くんならまた会うかもな、と手を振って、また人の流れの中に戻っていった。
　男はしばらく、遠ざかっていく青年の背中と、手にした飲み物に、交互に視線を向けていた。防水紙で作られた入れ物についた水滴は、どんどん丸く大きくなり、次々に男の手を伝って、ぽつり、ぽつりと石畳に落ちた。
　地面にできた染みが十を超えたところで、青年の背中が見えなくなった。男は歩き出した。青年が指さし教えた道を、大聖堂に向かう。よく冷えた紅茶は、一度も口を付けられないまま、道端の屑籠に放り捨てられた。
　一見ゆったりと歩いているようなのに、男の歩調は妙に速い。乾いた石畳に、途切れ途切れ水滴を落としながら、彼は歩く。同じ方向に歩く人が増えてきた。皆楽しげで、音楽会にでも向かうような様子だ。
　角を折れ、緩く曲がった道を歩いてゆくと、かすかに音楽が聞こえ始めた。賛美歌だった。管弦楽器やパイプオルガンの音色と合唱が、空気に溶けるようにして流れてくる。
　賛美歌の、神を讃える詞は、古い言葉で書かれている。神よ哀れみたまえ。声が響いてくるが、聖職者以外では、聞いても読んでも、ほとんど意味を理解できないだろう。だから、神をたたえるその詞は、そこに向かって歩く人々にとって、ただの美しい音の重なりだった。
　歩を進めるたび音楽が次第に大きくなる。人もどんどん増す。大聖堂の鐘楼に近付いてきた。この街で王城の次に高い塔だ。街のどこからでも見える。さらに歩き、最後の角を曲がったところで、人だかりの真ん中に、大きな建物が見えた。窓の鉄枠は、趣向を凝らした図柄にかたどられており、そこに色硝子がはめ込まれている。
　いつもは出入りごとにきちんと閉じられる大聖堂の正面扉が、ずっと開きっぱなしだ。入りきらなかった人が溢れていた。男はその人混みにゆっくりと近付いていき、まるで空気の中に踏み込むようにして、人と人の隙間を器用にするりと通り抜けていく。子供が一人、不思議そうな顔でその様子を見やった。自分は四苦八苦して前に行こうとしても、すぐに人に遮られてしまうのに、どうしてあの人は原っぱでも歩いているみたいに真っ直ぐ歩いていくんだろう？　首を傾げる子供の眼前で、男は大人達の背の向こうに消えた。
　聖堂の中には、音楽が響き渡っている。教会楽士達は、壁に幾度も跳ね返る残響まで考えて、賛美歌を作曲するのだという。美しい和音は、その努力の賜だ。本当は、正面の扉も閉めた状態で最も美しい音を織りなすように作られるのだから、これでもまだ、最高の状態ではない。しかし集まった人々には充分なようで、皆惚れ惚れと旋律に聴き入っていた。
　色硝子の窓を通して陽光が差し込み、無数に灯された蝋燭の炎とともに、複雑な陰影を壁に映している。ゆらゆらと炎が揺れるたびに、その影は形を変えた。
　正面扉に続く通路を進むと、天井高く作られた礼拝堂がある。芸術家達が丹誠込めて描いた壁画が取り巻く空間は、人だかりで埋め尽くされていた。招待された正式な出席者には椅子が割り当てられるが、演奏される音楽や、華やかに正装した騎士達を目当てにやって来る野次馬は、立ち見で押し合いへし合いである。だが、ざわめきは微々たるものだ。警護の騎士達が目を光らせているのに加えて、しんと張りつめた厳粛な空気が、列席者にお喋りを遠慮させていた。所々でささやかに交わされる私語きは、音楽で掻き消されてしまう程度のものだ。大道芸人の見せ物に、これほどの人間が集まれば、場は酷い騒ぎになっただろうけれど。
　正装の楽士達は、礼拝堂の一番奥、人の背丈ほど高くなった壇上にぐるりと並び、賛美歌を演奏していた。真ん中には厳めしい顔つきをした老司祭が三人並んでいた。
　向かって右の司祭は羊皮紙の束を持ち、そこに書かれた名前を順に読み上げていた。その都度、受章者が、椅子から立ち上がり壇上へ歩いていく。受章者が前に来たところで、左の司祭は、捧げ持った勲章を一つ、真ん中の大司教へと渡す。勲章はメダルのように首にかけるものもあるし、ピンで服に止めるものもある。どれも花や鳥の図案が金銀銅に彫り込まれた美しいもので、絹のリボンで飾られていた。大司教は、前に進み出た受章者へ、厳かにその勲章を付けてやる。その繰り返しだ。ともすれば冗長極まりない儀式だが、退屈している者は居なかった。叙勲される者は皆、緊張しつつも誇らしげな顔つきで自分の番を待ち、見物人は思い思いに音楽に聴き入ったり、普段はなかなかじっくりと観賞することの出来ない天井画や壁画を、ここぞとばかりに目に焼き付けたりしていた。
　かすかに空気が動いた。蝋燭の炎が一斉に揺らめいた。開け放たれた正面扉から風が吹き込んできたのだろうと、誰も気にはしなかった。鮮やかな青いマントを纏った騎士が、席に戻った。それを見届け、司祭は次の名前を読み上げた。
　エマ＝ヘイブンデール。
　重々しい声が響くと同時に立ち上がったのは、金に近い茶の髪をした、中背で痩せたプリーストだった。少々中性的な面差しに、長めの前髪が被さって影を作っている。凝った刺繍がびっしりと施された正装は、文句の付けようもなく美しかったし、綺麗な顔立ちに似合ってはいたけれど、壇上に進み出る様はどうにも頼りなく見えた。それはプリーストが痩せすぎているからでも、背の高い騎士たちに埋もれてしまう低めの身丈のせいでもなかった。整然と並ぶ受章者達が一様に高揚した表情を見せている中でただ一人、どこかしら浮かない、沈んだ顔をしているからだった。
　紅い絨毯を踏みしめ、プリーストはゆっくりと歩いた。その視線は真っ直ぐ前より少し下だった。レースに縁取られた長いローブの裾が、絨毯を引き摺られて衣擦れの音を立てる。そこから覗く黒い革靴が、無数の蝋燭の光を受けてつややかに光っている。それが揺れた。たくさんの小さな炎が一瞬真横になびいた。吹き消されそうなほどだった。やはり誰もそのことに気を留めなかった。ただ一人を除いては。
　下がり気味だったプリーストの視線がわずかに上向いた。所々私語でさざめきながらも、静謐を保っていた空気に、石を投げ込んだ水面にできる波紋のような、違和感が混じっている。
　声がした。
　式の厳粛に似合わない、軽口のような口調だった。そんな些細な軽口が届くほど、ここは静かではない。ひっきりなしに賛美歌が響いている。それなのに確かに、プリーストは声を聞いた。
　
　何故浮かない顔をする？
　
　まさに壇上に辿り着こうとしていたプリーストは目を一杯に見開いた。若草の色の瞳だ。驚き、困惑、恐怖、そのどれとも取れる。
　
　それはお前達にとってはこの上もない栄誉、逆らうことなど許されぬものだろうに、――
　
　絨毯を敷き詰められた階段の、最後の段に足を掛けたまま、唇を戦慄かせ、プリーストは立ち止まる。そこで楽器が一際盛大に鳴った。高い高い天井の下で音が反響する。神よあわれみたまえ。歌う声もそれに合わせて高く大きくなる。ぐるりと世界が回った、ように思えた。目眩に似た感覚と同時にプリーストは勢いよく振り向いた。音に頬を叩かれたようにも見えた。
　一人の男が立っていた。
　正しくは、そこにあったのは人だかりだった。大人も子供も一緒くたの、遠目には知己を識別するのすら困難な、人混みだった。だが、広い大聖堂の端と端で、プリーストの視線は過たず迷いなく真っ直ぐに、その若い男に向けられた。
　男の、光のない真っ黒の目が、一瞬揺れた。続いてその丸い漆黒に流れ込んできたのは、明確な歓喜だった。
　天井画とステンドグラスが浮かび上がる薄暗い空間で、賛美歌が、実際に歌われている以上に幾重にも重なり響いている。それを貫いて、十字架が掲げられた壇上に、声が届く。
　
　聞こえるのか。
　
　プリーストは身体をびくりと震わせた。勿論聞こえてきた声に返事などしないが、その反応は、肯定と同じだった。聞こえたからこそ、式の流れを遮ってまで、振り向いたのだ。
　男の口は動いてなどいない。しかし声は止まない。
　
　聞こえるのか。お前には聞こえるのか。わかるのか。
　
　響き渡る音楽などものともせずに、声はプリーストに突き刺さった。否、それは声という言葉が指し示すものではないかもしれないとすら、思える。
　人は二つの耳に届いた音の僅かな差異で、それが前後左右、どこからやってきたのか、存外に正確に察知するものである。だがさっきから届くこの声はどうだ。まるで、頭の真ん中で響いているようではないか。そんなものが声と言えるのか。
　壇上で凍り付くプリーストなど知らぬげに、音楽は続いている。
　
　神よあわれみたまえ。
　
　押し潰されそうなほどの音量で、神を崇める歌が床から天井までを満たす。プリーストは思わず耳を塞ぎそうになり、胸元まで引き寄せた手のひらを、すんでの処で止めた。
　
　神よ、あわれみたまえ。神よ。神よ、主よあわれみたまえ。
　主よあわれみたまえ。神よあわれみたまえ。
　神よ、主よ、神よ。
　あわれみたまえ。あわれみたまえ。あわれみたまえ。
　
　神よ。
　
　美しい和音、神をたたえるために選りすぐられた声は、一向に止まる気配がない。この礼拝堂で最も目立つ場所にいる者が、明らかにおかしな様子を見せているというのに、だ。音が輝くように反響している。きらきらと、しゃらしゃらと、色硝子から光がこぼれ落ちる。そこに絡みつくように、音楽を纏った賛美の言葉が降ってくる。楽士達の、磨き上げられた楽器を奏でる手が、酷くゆっくりと動いているように思える。神よ。荘厳な旋律を高らかに歌い上げる独唱者の唇も。次第に時が止まっていくようだ。
　頬を引き攣らせ、プリーストは目の前の男を食い入るように見詰めた。早くみんな逃げてという言葉は、音楽に掻き消された。それとも声に出せてすらいなかったのか。叫んだ当の本人にさえ、何も聞こえなかった。奏でられ続ける音楽以外には、何も。
　真っ黒だった男の瞳の真ん中が、深く朱くじわりと輝くのが、目に入った。ああやはりこれは人ではないのだ魔物なのだ。絶望そのものを目の当たりにした心持ちで、プリーストは小さな二つの朱い光を見た。人の目ではあり得ない空っぽな朱が、薄暗い聖堂で酷く鮮やかに浮かぶ。どうしてこんなものがここにいるの？　疑問に答えは返ってこない。
　男の手がゆるりと動いた。プリーストは男に向かって弾かれたように駆け出した。先程感じた違和感は、もはや違和感という言葉が生温いほど圧倒的な重圧を持って迫って来る。典礼の空間には酷く異質なものがそこに存在している。力を放とうとしている。何のために？　殺すために、としか、プリーストは思いつかなかった。階段を走り下りながら、詠唱を始める。最初は退魔の術を唱え、だがすぐに中断して、癒しの結界に切り替えた。プリーストには、自分の力で、あの魔物が倒せるとは思えなかった。それならまだ、一撃目で死者を出さないことを優先したほうが良い。
　周りの様子は明らかにおかしい。たくさんの騎士や司祭は、席に着いたままだ。誰一人、異様な気配に気付きすらしない。式を放り出すも同然のプリーストの行動に、誰も目を向けない。見物人達が騒ぎ出すこともない。だが男の攻撃で誰かが倒れたら、さすがに皆気付くはずだと、そうしたら何とかなるはずだと、プリーストは一体何が起きているのかもわからないまま、すがるように信じた。そして、初撃で倒れるだろう人々の傷を最小限に抑えることだけを考えた。
　階段を下り切った。男はいつの間にか見物人の最前列に進み出ていた。男が腕を持ち上げてゆくのも、自分がそこに向かって走ってゆくのも、どちらももどかしいほど緩やかだった。早く、早く、早く、傍までたどり着いたところで何もできないのだとしても早くあの手を止めなければその努力はしなければ。焦燥に追い立てられる一方で、思うように動かない自分の身体が邪魔をする。板挟みのプリーストが、やっと男のすぐ傍まで来たとき、男の手が止まった。真っ直ぐ前に伸ばされた、形のよい指先は、他の誰にでもなく、プリーストに真っ直ぐ向けられている。
　男は、プリーストの名前を知っていた。それを司祭が読み上げる瞬間、男は既に礼拝堂の中に居たからだ。ただの偶然だった。だが、偶然だろうと必然だろうと、プリーストが、その魂に付けられた名前を、男に知られてしまっていたのは事実だ。
　
　エマ＝ヘイブンデール、
　
　男は、はっきりとプリーストを呼んだ。
　瞬間、全ての音が消えた。しんとして無音だった。響き渡る賛美歌さえも失せた。この空気は静謐よりは空虚というべきだ。そして凍り付いた空間ごと、ぱぁん、と派手で軽い音がして、壁に嵌め込まれた硝子という硝子が砕け散り、破片が燦めきながら降り注いだ、と、プリーストには見えた。反射的に目を閉じ――
　
　
　瞼を開いた、そのときにはもう、聖堂には音楽が戻っていた。寸前に男が何か言っていたようにも思うが、何故かよく聞こえなかった。主よ、あわれみたまえ。何事も無かったかのように楽隊は演奏を続けている。何事も無かったかのように、司祭は次の名前を厳かに読み上げる。そう、何事も無かったかのように。無かったはずは無いのに。壇上へ続く階段の中途で踵を返した挙げ句、通路で立ち見の観衆のすぐ傍に立ち尽くしているプリーストなど、まるで存在しないかのように。
　式典というのは滞りなく恙なく行われてこそ権威の発揚となる。プリーストの行動は疑いようもなくそれに反していた。非難と叱責を向けられてしかるべきだったのに、誰一人視線すら合わせようとしない。
　呆然と、プリーストは――エマは、眼前の男を眺めた。男の目は、夜のような漆黒に戻っていた。と、男の肩を叩く者があった。後ろの方から人を掻き分けてやってきたのは、先程男が出会った、薬屋の青年だ。
　青年の薬にはエマも何度も世話になったことがある。通りで会えば会釈する程度には、互いに顔見知りだ。細い希望にすがるようにして、いつの間にかぱりぱりに乾いていた唇を動かし、エマはその青年を呼んだ。
　声が自分の口からきちんと外に出たことを、エマははっきりと自覚した。青年や男と、エマの間に横たわる距離は、ほんの数歩分だ。それだけの声を出して呼べば、必ず届く。だが、青年は、エマに返事をしなかった。
　また会ったな。どうだい、来てよかっただろ？　青年は男に耳打ちした。男は頷いた。男の、色の薄い唇が緩く曲げられる。端正な作りの顔が、ぞっとするほど美しい笑みを浮かべるのを、為す術もなくエマは見る。
　あんた名前は？　青年が尋ねた。男は小声で返した。ブルームフィールド――サナク＝ブルームフィールド。その答えを聞いて、本当は男に名前なんて無いのだと、エマは悟る。エマの背後、十字架が架けられたあたりの壁画は、花畑を描いたものだった。見ずとも鮮明に細部まで思い出せる。毎日毎日眺め続けた、見慣れた壁には、青空を舞う小鳥と、清楚な花が描かれている。その花の名が、サナクだった。男は適当に目に入ったものを並べただけなのだ。サナクの花畑。だが、壁画の題材そのままの単語を、薬屋の青年は疑いもなく男の名前と信じたようだ。
　名前でないものを名乗る男の声は、低く小さい。周りの人々に倣い、演奏に配慮したからなのだろうか。神に相反するものが、あたかも賛美歌に敬意を払うような行動を取る。異様な有様を、誰もそうと気付かない。皆、そこにいるのは人間だと思っている。薬屋の青年は、男に向かって、いつもの笑顔で、俺はヴィンセンスだよと、名乗り返した。エマは背筋を這う悪寒のままに身体を震わせた。
　
　神よ。
　
　長く伸びた三声の和音とともに、曲が終わった。曲とともに、自分が今置かれているこの状況も、ぱちんと泡がはじけるごとく終わるのではないかと、エマはほんの少し期待した。泡と消えたのはその切実な願望の方だ。叙勲式は粛々と続き、次の曲が始まった。
　エマは後ろを振り返った。祭壇に向かって左側、前から四番目の列の、自分が居た席は、ぽっかりと空いたままだ。
　あの声に気付いてしまわなければ、自分は今頃あの隙間に戻って椅子に座っていたのだろうか。
　ちらと男に視線を向けた。男は相変わらず微笑を浮かべている。何も知らずにいたら、思わず見惚れただろう、美しい笑み。自分の詮無い思考を嗤っているようだと、エマは思った。
      2008冬コミ予定DOPプリ本の序章
序章じゃなくて第一章扱いになるかもしれませんが
この時点で構成が決まってない時点でもうだめだ　＿ノフ○
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   <title>嘘吐き</title>
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   <id>tag:08140305.com,2008:/main//5.219</id>
   
   <published>2008-11-20T03:40:33Z</published>
   <updated>2008-11-20T04:49:39Z</updated>
   
   <summary>うそつきは　どっち？</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Crashers" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="4" label="text" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      「塀を登って入ってくるのはいい加減やめろ」
　ちょうど石塀の天辺を飛び越えようとしていた蘭は、唐突に降ってわいた様なその言葉に、危うくバランスを崩して落ちるのをすんでのところで踏みとどまる。
「危ねえな！！　いきなり声かけんなよ！」
　そうして身体を立て直し、塀のこちら側に着地するや否や、それはそれは大層な剣幕で食って掛かるのを、
「門から入ってくれば少々遅く帰ってきても誰も咎めんと何度も言っている」
　優士はあっさりと一蹴した。
　ただそれだけで蘭が言葉に詰まり、視線を地面に落とすのは、優士の言葉に対し、自分の反論に何ら正当性が無いことを知っているからだ。
「…こんなだだっ広い屋敷の周り、律儀に門まで回ってられるかよ」
　それでもふくれっ面で文句を言うのに、優士はため息で応えた。
「小さな子供にはともかく、お前には大した距離じゃないだろう」
　短気な奴だ、そう呟く優士の呆れた口調に、蘭はますますブスくれた。けれど、お前は人のことが言えるのかと、口の中だけでもごもご反論するだけで、何一つはっきりとした言葉にはしなかった。
　しばらく仏頂面で黙り込んでいた蘭は、ふと気づいたように、あるいは話題をどこかへ逸らすためか、一体どうしてこんな時間にこんなところにいるのかと優士に尋ねた。確かに今はもう深夜と言ってもいい時間に入りかけていて、そしてここは門から離れた庭の片隅で、優士でなくても特に何も用は無いだろうと思われるのだ。蘭が不思議がるのも無理は無かった。
「仕事をしていたら窓からお前の帰ってくるのが見えたからな。また塀を越えて入る気かと思って見に来たんだよ」
　そうしたら案の定だ。言いながらさらにもう一つため息をつく優士を睨み付けながら、蘭はコートの裾についた泥を払って立ち上がった。
　と、優士は蘭の顔を覗き込む。蘭が一瞬慌てたように見えたので、大方自分の陰口でも考えていたのだろう、そう優士は思った。嘘を貫ききれない迂闊な素直さが、優士は好きだった。
「…顔色が悪いぞ。風邪でも引いたんじゃないのか？」
　その言葉に、すぐに安堵した表情を見せたので、自分の予想は間違っていなかったのだなと、思わず苦笑しそうになるのを、優士は無表情に押し込める。笑えば、蘭は意味を取り違えて、また怒り出すのに違いない。何だよ人の顔見て笑うなよ失礼だな。口調まで想像できる。
「平気だよ、」
　言葉の最後が消えて、静かな庭に、押し殺したようなくしゃみが響いた。しまったというような表情も、つい一瞬前の言葉の信頼性の無さを強めた。蘭はついと優士の顔付近から視線を逸らした。それは、だから上着を着て行けと言ったのにとか、さっさと帰ってくればいいものをとか、そういう耳に痛い小言と、それ見たことかと言わんばかりの呆れた表情を予想したからか。
　けれど優士は、蘭の思い浮かべたような言葉を一つも口にしなかった。
「…お前は」
　その代わりの、
「嘘吐きだな」
　責める意図を感じさせない声色が、夜の空気に消えた。ふわりと蘭の首にかけられたマフラーは、それまで優士の首周りにあったもので、体温と同じくらいのぬくもりが残っている。それから優士は、さあ家に戻るぞと離れる代わりに、蘭の肩の上に腕を伸ばし、後ろで髪を梳くように指先を組み合わせた。蘭は目を見開き、口をぽかんと開けた。
　その面食らった様子を、優士は笑った。笑って、半歩だけ歩み寄って、額に唇を寄せた。
　優士の唇の薄い皮膚に触れた額は、いつもより少し熱い。
「無理をするなよ。…さほど、丈夫でも無い癖に」
　蘭が短く息を飲み込んだのが手のひらと唇から伝わる。
「あまり心配させるな」
　ただ同じことを言っただけなら、あるいは責める口調で叱ったのなら、蘭は散々に悪態をついて反論しただろう。だが今は、ほんの僅かに頷くだけで、黙って瞼を開いては閉じる。それが愛おしかった。
　結局、嘘を吐いているのはどちらかというと、自分のほうなのだと優士は思う。
　たとえば、さっき、確かに仕事はしていたけれど、外を気にしてカーテンに隙間を開けていたことは言ってない。何度も何度もそちらに目をやった。だから帰ってきたのに気が付いた。
　そんな他愛もない照れ隠しで終わらない嘘だってたくさんたくさん吐いている。嘘で固めた自分がいることを知っている。
　そうでなければこんな境遇で生きていけない。きっと許される正当化だ。
　納得してしまえたらきっと楽になれる、言い訳だ。
　
　嘘吐き。
　蘭に放った声が、頭の中で何重にも響く。
　今彼に向けた気遣う言葉は本当かと、そう問いかけるように、繰り返し響く。
　本当だと答える声はどこかに消えてしまうのは、本当でないことを言うのに慣れ過ぎたせいなのだろうか。本当のことを言っているはずなのに嘘を吐いているように、思えてしまう一瞬がある。
　
　嘘吐き。
　そう言われたとき、蘭が、お前はどうなんだと返してきたことは、一度も無い。
　優士はそれが、少し心苦しい。
　多分お前は、俺を馬鹿正直な人間だと、思っているんだろうな。優士は蘭に見えない場所で自嘲気味に笑う。
　たった一歩で良い。付き合いで浮かべる愛想笑いやお世辞を、同意し従う言葉に変えたなら、優士だって早晩裁かれる側に回るのだ。
　それを知ったら蘭はどうするだろう？　探しても優士の中に答えは見つからない。
　
「…好きだよ」
　
　優士の薄く小さな声が、口づけたままの蘭の額と暗い夜に溶けて消えていく。
　蘭は固まったように動かなかった。
　強く抱き締めているわけではないから、鬱陶しいなら振り払えばいい。それでさっさと部屋に戻ってしまえば仕舞いだ。蘭がそうしないことに、優士は少しの希望を持つ。
　吐いた息が白く煙っていく。そんなふうに、人が口にした言葉や、そこに込められた真意を、目で見ることが出来たらいいのに。ただ組み合わされただけだった優士の指に、かすかに力がこもった。
　祈るように、彼は考える。
　
　本当は、お前なんかよりも、ずっとずっと　嘘を吐いている。平気だと言わなければ立ち上がれなかった。境遇を恨んでないなんて嘘だ。復讐を一度も考えなかったわけじゃない。無難に笑えなければ自分や妹を守れなかった。最初は意識してそうしていたはずなのにいつの間にか何も考えなくても出来るようになった。
　もう自分でも何が嘘で何が本当なのかわからなくなってくるよ。
　だからこの口から出る言葉の、真贋はお前が決めてくれればいい。
　本当だと言ってくれるなら受け取って欲しい。
　嘘だと思うならそれでもいい。
　
　けれど優士は、その一方で、なお思うのだ。
　
　
　自分の心から、今、余計な言葉を、嘘の入り込む隙間を、全部無くしたら
　――きっとお前しか残らない。
      2003年初春？　初出
　
だいぶ修正して再公開であります
昔の文章は今見ると以下略……＿ﾉフ○
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   <title>花の降る</title>
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   <id>tag:08140305.com,2008:/main//5.213</id>
   
   <published>2008-11-08T16:30:41Z</published>
   <updated>2009-06-02T05:16:23Z</updated>
   
   <summary>考えるのを止めても　もう遅い</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
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      　そろそろ夕陽になりかけの、黄色みを増した光が足下に届く中を、優士は歩いていた。
　勝手を知り尽くした自家の庭といえど、この広さでは人一人捜すのは骨である。しかも彼があたりを付けた場所はことごとく外れだった。もう少しで庭をぐるり一周だ。はぁ、とため息一つついたところで、視線の先に、濃色のスニーカーを履いた足が飛び込んできた。
　この家には、庭で寝転がるような人間は、彼の探している相手をおいて他に居ない。ああやっと見つけた。優士は消えたばかりのため息をさらにもう一つ上書きした。土の上にひょろりと投げ出された洗いざらしのジーンズは、緑がかった藍色だ。ジーンズとしては一風変わったその色合いを、濃く鮮やかな橙のスニーカーとの合わせまで含め、奴の持ち物にしては珍しく美しいと、優士は思った。
　もう秋も深まった。夕方の日が陰る頃に庭でうたた寝なぞしていては風邪を引くだろう。この馬鹿者がと肩を竦め、優士はゆっくりと蘭の方に歩いていった。だからといって心配して探しに来た訳ではないのだと声に出さず言い訳をしながら。昼から延々と探していたのは用があったからだ。その用というのは、散らかした雑誌を片付けろとか任務の（ただし一月以上先の）概要に目を通したのかといった、傍目のみならずおそらくは彼自身にとっても、至極どうでもいい小言ではあったが。
　甘い香りが漂っている。歩を進めるごと、次第に咽せるほどに強くなる。勿論彼は自分の家の庭に何が植わっているかを熟知していたので、その香りが何であるか判っていた。
　つるりとしていながらどこかくすんだ緑の葉が茂る枝のそこかしこに、細かな橙の花が咲いている。一目でそれを金木犀だと気付く人間は少ないかもしれない。背が高すぎるからだ。実際はこの樹木は常緑の高木で、放っておけばどんどんと伸びていくのだが、普通の家に庭木として植えられていて、こうまで丈の高いものはそうはない。せいぜいが軒先程度で、二階のの屋根すら越えようかというほど伸びた大木は、おいそれと見かけるものではない。蘭が転がっているのは、その金木犀の根元だった。
　一杯に張り出した枝の重なりが、草むらに転がる蘭の鼻先に影を落とす。葉の隙間からこぼれてくる光が、薄暗さに所々穴を開けていた。長めの前髪は額から滑り落ちていて、目を閉じているのがはっきりと見えた。
　優士はひたりと足を止めた。立ち竦んだ、といった方が正しいのかもしれない。
　蘭は小さな橙の花に埋もれるようにして、眠っていた。
　金木犀の花は脆い。少し揺らせばすぐ落ちる。もうそろそろ盛りを過ぎているのでなおのこと、弱い風でも一気に散る。そうやって橙の花が、昼から今までの間、横たわる蘭とその周りに、積もったのだろう。
　つめたいてのひらでゆるりと背を撫でられた気がした。ぞくりと身体を震わせた瞬間に、敷石に貼り付いたようだった靴底が剥がれた。そのまま優士は蘭の傍まで大股で歩み寄って、蹴り起こす勢いでさっさと起きろと怒鳴りつけた。それくらいの剣幕でなければ結局声に出すことはできそうになかったからだが、そのことを彼は自覚していただろうか。
　横たわる蘭の、薄い瞼を縁取る睫毛の一本一本が、日焼けしていない白い皮膚に細い影を作っている。それがかすかに震えて、眉の間にぎゅっと皺が寄った。ややあって五月蠅そうに顔をしかめ、蘭は目を開けた。
　半身を起こすと、積もっていた小さな花がぱらぱらと落ちていく。蘭は、残る眠気を振り払うように頭を二度三度と揺らし、それからじろりと優士を睨み付け、何だよ、と、鬱陶しそうに息を吐いた。やはり冷えたのか少々顔色が悪い。
　こんなところで寝ているんじゃないと、優士は言った。一転して呆然と独り言のように呟く様に、蘭は怪訝な顔で首を傾げた。
　じっと自分を見る蘭の視界から外れようと、あるいは自分の視界から蘭を退けようとするかのごとく、優士は踵を返し、自分の来た道を帰り始めた。蘭は一呼吸ほど呆気に取られたが、慌てて立ち上がり、自分に纏い付いた金木犀の花を払いのけるのももどかしく、優士の背中を追いかけ手を伸ばした。アンタ俺に用があったから叩き起こしたんじゃないのかよと、苛立ちより戸惑いを滲ませて、蘭は優士の肩を引いて振り向かせようとした。その拍子に蘭の指が優士の頬に触れた。骨張った細身の指を冷たいと、優士は思った。
　彼は、蘭の手を思い切り掴んで引き寄せた。黙って、振り向きもせず、そのまま蘭を引っ張って早足に歩く。蘭はつんのめったが辛うじて踏みとどまった。手を引いてというには乱暴に過ぎるその行為は、自分ならともかく優士はまずやりそうにないことなのに。釈然としないまま、痛ぇなとぼやいて、しかし痛いほど掴む優士の手を、蘭は、振り解こうとはしなかった。
　優士の靴音は規則正しく響き、それを追いかけるように鳴る蘭のそれは時々突っかかった。蘭の手を掴んで離さない優士は、そのくせ頑として後を振り返らない。
　優士の手の中で、冷たかった蘭の指先が、ゆっくりとあたたまってゆく。そのことに、優士は、酷く、安堵する。どうして？　自問がくるりと、心の奥で一回りする。
　横たえられた身体が花で埋まる様が優士に想起させるのは、たったひとつ。
　
　父の、母の、最後の――
　
　ぞわ、と、また身体が震える。手を伝って蘭に届かなかったろうか。それが優士は心配だ。
　自分たちはとても死に近いところにいる。
　金木犀のような、およそ手向けには似つかわしくない花にも、脳裏に描いた葬列の記憶を重ねてしまう。くだらない思いつきに過ぎないのに、馬鹿なと笑い飛ばし切れない。
　では、何故、そうやって、この生意気な、人の言うことなど聞こうともしないろくでなしに、死を見たからといって、だからといって、こんなにも、こんなにも、こんなにも。
　家族ならわかる。太陽を失えば自分はもう正気ではいられないだろう。鈴木もそうだ。家族同然のあの老執事にもしものことがあればと考えるだけで怖ろしい。仲間も。仲間を亡くすことに耐えられるほど自分が強いと彼は思わない。将人に、黎一や、あの成でさえ。だがしかし、勝手気儘に振る舞うこの馬鹿者は仲間とも言えない代物だ、そうだろう？　優士は自分に言い聞かせる。
　彼は自分で意識できる程度には冷淡だった。仲間以外の人間を切り捨てたとき多分心は痛むだろうがそれだけだ。あれは仕方のないことだったのだといつかは納得してしまえる。そして彼の基準では蘭はけして仲間ではあり得なかった。だから蘭は、彼にとって、見捨ててしまえる人間の部類に属しているはずだった。
　それなのに握りしめた手が冷たくなくなってゆくことにどうしようもなく安堵する。
　泣きたくなる。
　朱く燃え始めた冷たい空に不揃いな足音が吸い込まれていく。滑り落ちていく大きな丸い陽の橙よりも強く目に焼き付いているのは、蘭のスニーカーの派手な布地だ。それを初めて見たとき下品だと感じたことを優士ははっきりと思い出した。
　手入れされた草花が風に煽られて擦れ合い音を立てた。いつもなら目に快いだけの花々は気に障って仕方なく、そうやって張り詰めていく意識が、手の中のぬくもりと背後の困惑した気配で緩む。
　
　何故？
　
　考えることを、彼は止める。
　――考えずとも、早晩自覚するだろうと、知りながら。
　
　響いては消えていく足音に追い立てられる心持ちで優士は歩いた。甘い香りが遠ざかっていく。金木犀があったのは広い庭の隅の方だ。彼らの居室がある建物はまだ遙か向こうに見える。馬鹿みたいに広い庭だと蘭は小さな声で軽口を叩いた。蘭を引き摺って歩く優士は、庭のその広さに、ただ、感謝する。その距離を歩いていく間に少しでも落ち着けそうな気がするから。あるいは、それだけ長く、この手を繋いでいられるから。
　いっそ今、蘭が、いつもそうするように自分の手を振り払ってくれたならと、一瞬だけ、そんな考えが優士の心を過ぎった。
      えーと二年ぶりですか
ありえなく久々に優蘭更新
久し過ぎて笑える上にこのどうしようもないくっついてなさは一体
　
ていうか　クラッシャーズ　知ってる人　まだいるんすかね……？
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   <title> 「beloved/hated」 序章</title>
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   <id>tag:08140305.com,2008:/main//5.199</id>
   
   <published>2008-04-30T07:39:59Z</published>
   <updated>2008-04-30T14:52:04Z</updated>
   
   <summary>Hello, Hello, ripper sorrow.</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
   </author>
         <category term="Book Sample" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   <category term="14" label="sample" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#tag" />
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://08140305.com/main/">
      　目覚めは、あまりにも出し抜けだった。
　彼は闇の真ん中で目を開けた。それと同時に意識というものも働き始めた。だが周りの闇が一体何なのかはわからなかった。
　いや、それどころではない。彼は何もわからなかった。
　ここはどこだろう？　自分はどうしてこんなところにいるのだろう？　どうしてこんなところで眠っていたのだろう？　本当に眠っていたのだろうか？　何かあって意識を失っていたのではないのか？　ああ、そういえば、ここに来る前に自分はどこに居たのだった？　――そもそも、自分は何者だろう？
　それらの、わかっていて当然のことが、空気がそこにあるのと同じくらいに当たり前のことが、何一つ、彼にはわからなかった。
　闇は濃い。だが、それは何の拠り所にもならない濃さだ。身体を預ければ預けた分だけ、飲み込まれていく深泥だ。
　彼は、くるり辺りを見回した。
　墓が見えた。崩れかけの墓石が、白々と闇に浮いていた。
　後ろ側に頭を向けた。
　派手に破れ朽ちかけた黒いコートがあった。傍には、乾き砕けた白い欠片が折り重なり、ぼんやりと浮かび上がっていた。
　風でもあれば、その危うい小山は、いとも簡単に崩れ落ち、からりと音を立てそうだった。だが生憎空気は僅かにも動かない。時間が動いてないのではないかと思えるほどに、ここでは何も聞こえなかったし、何も動かなかった。
　最後に彼は自分の身体を見下ろした。黒くて裾の長い服を着ている。いや、着込んでいるといったほうが正しいか。窮屈一歩手前のきっちりとした意匠の服だ。合わせの留め金を、上から下まで止めている様は、よく言えば真面目、悪く言えば堅苦しい。
　厳めしい作りとは裏腹に、丈は余っていた。幅も余っていた。誂えたような上等の服なのに、何故身の丈に合わせていないのか、それもわからない。
　両の手のひらを目の高さに掲げてみた。欠けた墓石に負けず白かった。細く弱々しく頼りなく見えた。力はなさそうだ。武器を――剣や槍といった、重量級の獲物を振り回すことなど叶わなそうな、痩せた手首が、ずり落ちたぶかぶかの袖から覗いている。
　ああどうしよう。どうしよう？　どこへいこう？　なにをしよう？　なにもおもいうかばない。なにもわからない。どうしよう。どうしよう？
　真っさらな意識を持て余しながら、荒涼の真ん中にぺたりと腰を下ろしたまま、彼は、ただ途方に暮れた。
　そのとき視界の遙か彼方に現れた人影のようなものに気づかなければ、彼はいつまでたってもそこにいたかもしれない。そうして誰かが彼を見つけたかもしれないし、誰も見つけなかったかもしれない。何も、何も見つからなかったかもしれない。
　だが、今このとき、彼は自分の視線の先に、人の形をした影を見つけたのだ。そしてそこへ行ってみようと思い立った。自分が何者かなんて相手は知らないだろう。しかし、何もわからない自分が何をすべきかを、教えてくれるかもしれない。そんな薄淡い期待を覚えたからだ。
　ゆっくりと彼は歩いていった。人影の背中は段々と大きくなっていった。
　男のようだった。細身だが、しっかりとした骨格と無駄なく鍛えた筋肉が身体を作っている。布でできた貫頭衣と肩掛けの下に鎖帷子を着込み、腰には二本の剣を帯いているところからして、戦闘を生業とする者なのだろう。
　後ろ姿からなので顔立ちはわからない。ただ、金髪なのは見て取れた。暗闇の中でも美しい短めの金髪だ。
　近づくにつれ、あれは少年ではないかという思いが強さを増した。背丈はさほど高くなく、鍛えられていながらも身体の線はどこか柔らかい。大人の男の、筋肉の存在が無遠慮に剥き出しになった直線的な骨格や輪郭とは違う。それはどんなに鍛え上げ剣に慣れたとしてもやはり存在する、大人と子供との境目だ。
　何かを探しているようだ、と感じられた。ひたとどこか一点に視線を向けているらしい。頭を微塵も動かさず、すっくりと闇に映えて立つ姿からは、探す、という、迷いにも似た姿勢は、露も見て取れない。それなのに何故そう思えたのかは、わからなかった。
　彼は、少年に声をかけた。
　次の瞬間、振り向きざまに向けられたのは剣だった。誰何の言葉のひとつもなく、流れるような動作で引き抜かれた長剣の切っ先が、彼の鼻先で止まっていた。
　牽制といえる勢いではなかった。間違いなく、明白な殺意が、そこには込められていた。それならば、どうして鋭く冷ややかに燦めく切っ先は、文字通り目と鼻の先に来てまで、止まってしまったのだろう？
　今にも睫毛に触れそうなほど近く、ひたりと自分に定められた切っ先を前に、彼はただ、目を見開き、呆然と立ち尽くした。さっき墓に囲まれて座り込んでいたときと同じ表情を浮かべていた。何もわからず、途方に暮れた、頼りなげな、そんな顔をしていた。
　剣を振り向けた少年もまた、よく似た表情をその面に張り付けていた。顔立ちもやはり大人というにはまだ幼い。振り返った瞬間には、切っ先に込められた殺意と同等の険しさを、眦と唇に滲ませていたが、それでも造形に残る幼さがその剣呑をかすかに鈍らせていた。ましてや今の、瞼を一杯に開いた、当惑も顕わな様子は、年若さを際立たせるばかりだった。
　二人、どれくらい、突っ立っていただろうか。
　少年は剣を下ろした。抜いたときよりはゆっくりと、どこかためらいがちに、切っ先は地面を向いた。その軌跡は円弧に近い形を描き、闇を映す視界にほんの一瞬、さざめくような残像を残した。
　目の高さが同じくらいだった。少年の瞼に張り詰めた緊張が、わずかに緩むのが見えた。
　――どうしてこんなところにいる？
　少年は、低く抑えた声で短く言い放った。抑揚のない、小さな声だった。しかし静かなこの闇では、暴力的なまでにはっきりと響く。
　その問いに、彼は、わからないと答えた。そうとしか答えようがなかった。だって本当にわからないのだ。何も、何一つ。
　目が覚めたらここにいたけれどなんにもわからない。どうしてここにいたのかも自分がいったいなんなのかもわからない。どうすればいい？　どこにいけばいい？細く白い手を胸の真ん中で握り合わせ、彼はそう訴えてみた。
　少年はほんの少し首を傾げた。そこにあるのは迷いか、当惑か、逡巡か。浮かべた表情を名状し難いのは、少年がそこに感情をかすかにしか覗かせていないからだ。どうとも取れる。迷いと言われればそれは迷いだし、逡巡と言われればそうとも思える。
　しんとして静かだった。小石が転がる音さえ聞こえなかった。ただ、息をするのに合わせて少年の胸が上下し、その瞼が時折閉じては開いたから、時間は止まってはいないのだとわかった。
　呼吸何度分くらいの時間が経っただろう。
　少年は剣の柄を掴んでいない方の手を差し出した。おいでと、言ったように思った。本当に言ったのかもしれないが、差し出された手を食い入るように見詰めていた彼には、声が聞こえたのか聞こえていないのかよくわからなかった。
　革手袋をはめた手のひらを前に、しばらく彼は躊躇うばかりだったが、促すように少年の指先が緩く曲げられて、ようやく彼は、握り合わせた手を解き、細い指で恐る恐る少年の手に触れた。
　少年は彼の手を引いて歩き出した。どこへ行くとも何をするとも言わない。弱くはなくさりとて強くもない、振り払うのも容易い微妙な力加減で彼の手を握りしめ、黙って少年は歩いた。
　彼は大人しく後に付き従った。少年の行く先ではなく、その後ろ姿から目を離さずに歩いた。余計なもののついていない、細身だがかっちりとした輪郭の項に、淡い金髪の裾が被っている。肩掛けの刺繍に使われた藍と赤の色糸が美しく、それが色の薄い金髪によく似合いで一層見栄え良かった。
　知っているように思われた。
　その背中を知っているのだと、感じた。
　何故、そんな気分になったのだろう？　前にもその背中を見たことがあったと。だが知っているという前提で、もっとはっきりとした記憶を引っ張り出そうとしても、曖昧模糊として始末にゆかない。
　手を引かれるままに歩きながら考えていると、やはり違うのではとも思えてくる。自分の記憶の奥にあるよく似た背中はもう少し小さかった気がする。もう少し細かった気がする。こんなふうに、しっかりとした足取りで歩いてはいなかった、気がする。
　何もかもよくわからなかった。
　一歩前を歩いてゆく少年の、体温も何もわからない、革手袋をはめた手だけが、確かだった。
      特攻野ROでの新刊予定のDOP本「beloved/hated」の序章公開
例によってまだ完成してませんが何か　何か？_|￣|.......((○ 
もちろん自分を追い込む意味合いを込めています　もう後には引けないという
　
ちょっと変わり種かもしれない話
そしてうちの鬱ラインナップの中でも結構なワーストですので
お嫌いな方は手に取られませぬよう…！
ってこんなところで言ってもしゃあないっちゃしゃあないですが(nﾟωﾟ`)
　
当日注意書きでも貼っておくべきですかね
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   <title>Never more, No more.</title>
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   <published>2008-04-14T15:03:07Z</published>
   <updated>2008-04-14T17:17:42Z</updated>
   
   <summary>笑ってる顔しか思い出せない</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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      <![CDATA[<img src="http://08140305.com/img_illust/ro/ll_color_08.jpg" border="0">
　
前回のDOPとおそろいみたく描いてみたプリさん
プリさんには羽がないのでストールを羽のようにはためかせてみました
DOPにだって羽はねえだろとは言ってはいけませｎ
　
トップ絵にすること前提で描くときは数枚同じような感じで描くことが多いので
そうするとジャンル混合でも同じような雰囲気の絵をまとめて置いておきたいのですが（自分がわかりやすいし
閲覧する皆様はジャンルごとにわけてあったほうが見やすいよなぁというジレンマ
　
それでめんどくさくなってログ流してちゃ本末転倒きわまりないんですけどね…！]]>
      
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   <title>Sadness of lost</title>
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   <published>2008-04-04T00:15:30Z</published>
   <updated>2008-04-04T00:27:40Z</updated>
   
   <summary>その眼の奥に　つめたくあかく燃えるのは</summary>
   <author>
      <name>野道</name>
      
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      <![CDATA[<img src="http://08140305.com/img_illust/ro/ll_color_07.jpg" border="0">
　
とりあえずイラスト頁の方に入れられないので一旦ここに置いておきますねｎ(･ω･)ｎ
何故入れられないのかは割愛
いつものトップ絵のように「ログ残すのがﾏﾝﾄﾞｸｾ」という理由ではない(|||´Д｀)
　
本当にDOP大好きだなと言われそうですが
ああ大好きさ！(ﾟ∀ﾟ)
と開き直っておきます（お前
　
使ってる花モチーフはフォトショップのブラシです
えらい綺麗なのを見つけたので使ってみました
大変良い感じのブラシなのでしばらくこれで色々遊んでみようと思います
鉛筆正装シリーズどうしたよとは聞かないでくださいorz]]>
      
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