Crashers

ゆくさき

歩いて歩いてその先に

 
 

 線路を、歩いていた。終電の時刻はとうに過ぎて、貨物のコンテナが通るわけでもない路線は、しんと静かだ。敷石や枕木を踏む乾いた音だけが、ざり、ざりと響く。宵っ張りが住む家の明かりが唯一足下の頼りで、それでも随分この目は暗がりに慣れた。
 こういうのも、結構良いよねえ、と、前を行く成が笑って言った。阿呆、どれだけ歩くと思ってる。顔をしかめて優士は返した。
 帰り着くまでは後何駅か。歩こうなどと言い出したのは勿論成だ。珍しく仕事とは関係なく、ただ飲みに出た帰り道、それなりには酔った。頬が火照って、晩秋の冷気がそれを冷やした。
 車を呼べばすぐの距離を、暇だと言うほどの余暇を持ち合わせてもいないのに、わざわざ時間と体力を費やして、それも線路に不法侵入してまで歩くのは只の酔狂で、文字通り酔っているから為せる業か。視界の端でまたひとつ電灯が消える。明かりのついた窓よりも、消えているほうが多い。そんな時間にひたすら歩く。目的地は、まだ遠い。
 それでも、と、優士は思う。歩きづらい道に普通の革靴を履いた足が少し痛む。今二つ目の駅を過ぎた。最寄りまでは後五つ? 六つ? 普段あまり公共交通機関を使う機会の無い彼にはあまり覚えが無い。ただ、遠いことだけはわかる。
 それでも、遙かに良い。遠くとも、歩きさえすれば、この先に必ず駅はあるのだから。
 吐いた息が少しだけ白く曇った。冷えるのは、酔いが覚めていくからだけではあるまい。もう冬が来る。また、と言い換えようか。またひとつ、彼のいない冬が来る。
 どんなに、どんなに遠くても良い。探して探して歩き続けた先に、見つけ出せるとわかっているのなら、地図などは無論、道すらも無くとも、この足を踏み出すことを迷いはしないのに。もう何処にも居ないのではないか、それを思い知らされるだけではないのかという疑念が、その一歩を、鈍らせる。
 周囲は暗い。始発まで長い。他に誰も居ない線路を、二人は歩く。成は前を、優士はその後を、距離を詰めることなくただ歩く。わずかに違う歩幅が、足音の間隔を不揃いにする。それがいっそ心地良かった。
 こちらが何を思いながら歩いているかなど、奴はわかっているのに違いない。成の背中を見つめながら、酔いが残る頭でつらつらと優士は考える。黎一も食えないことに変わりはないが、こいつのほうが余程食えないと感じるのは自分だけか。見透かしながら知らぬ振りで黙って笑う。指さし言い当てられるより、そのほうが逃げ場を無くすのは。
 頭上には雲の無い暗く透けた夜の空、街の明かりで星は見えない。見えなくとも、そこにある。自分の求めてやまないものもまた、そういう存在であると信じられたら。
 一瞬足を止めた。目を閉じた。そしてまた歩き出した。
 終着は、まだ遠く、執着ばかりが、ただ、ここに。

 
 
 
 
 
 
 

終了ならずのお題テキスト(|||´Д`)
ジャンルが残っているのでメニュー移動で残留です

こいつのお題は「線路沿い」でした
これまた短いわ暗いわ…

 
November 10, 2006
 
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