RagnarokOnline ...longing/love
01.はじまり
穏やかに そして鮮烈に すべてが始まる日
首都を城壁都市とし、堅牢な守りで他国の侵略を寄せ付けず、幾多の国からなる神聖同盟の盟主国として絶大な権力と栄華を誇る国が存在した時代があった。
神の住まう城と同じ名を冠するその国は、神降りし場所という伝説が残る地に王城を構えた。古くに長くそこにおわした神の血を引くと言い伝えられる家門の当主を国王に戴き、王位継承権を持つ第一子は、神の力を受け継ぐ証である金の両眼を持って生まれてきたという。
グラストヘイム神聖帝国は、そのような国だった。であるからして、王子はこの大国の跡継ぎであると同時に神の子孫でもあり、その誕生は、国を挙げて祝うべき最大の慶事のはずであった。
だが、建国から数えて六代目の国王に、待ち望まれた王子が誕生したその日、太陽が沈むまでにそれを知ったのは、ほんの数人だけだった。
城からは祝砲も聞こえず、教会という教会が祝いの鐘を鳴らすこともなかった。大多数の国民は前の日と同じように、間近に迫っているはずの世継ぎの誕生を今か今かと待ちわびながら一日を終えた。
そして、アナイス=クローデルも、王子誕生を知らぬまま昼下がりを過ごしていた。
クローデル家は初代国王の弟に始まり、代々最高司祭を務め、また優秀な聖職者を数多く輩出した名家として、国内外で知られている。アナイスはそのクローデル現当主、アーネスト=クローデルの長子であり、今年十四になる少年だった。神学校でも優秀との誉れ高く、当人もそれを誇りにしながら、跡継ぎとして更なる研鑽を積んでいた。
アナイスは広い庭で、傾きかけた日を眺めていた。春が近いとは思えない冷たい空気で、上着を着込んでいてもなお肌寒かった。彼はどちらかというと寒さは苦手だった。本当なら家の中で本でも読んでいたいところであったが、今日に限ってこの寒いのに何故だか妙に外に出たがる末の弟に付き合って、よく手入れされた庭を、昼食が終わってからかれこれ数時間もうろうろと歩き回っていた。
いくら庭とはいえ、相当に広く、また小さな池やら噴水やらがそこらにある場所で、まだ五つにもならない弟を一人で遊ばせるわけにもいかない。そしていつもなら我先にと末っ子を構いたがる他の兄弟達は、今日は生憎の不在だった。アナイスは、ちょこまかと歩き回る小さな弟の後をついて回っては、危ない場所に行きそうになると、慌てて引き戻してそちらに行ってはいけないと言い聞かせた。
ひゅるり、と冬そのままの寒さでつむじ風が吹き抜けた。緑の混じり始めた木々が枝を鳴らす。寒いのは確かに好きではなかったが、弟が喜んで笑うのを見ていると、鼻をつんと刺す冷たい空気も、かじかんだ指先も、不思議と気にならなかった。
他の兄弟達には鬼だの何だの言われるまでに厳しい長兄も、幼い末っ子には甘かった。だからといって兄弟達が大した不平を口にしないのは、彼らも皆、揃ってこの小さな弟に甘いからだった。こぞって甘やかす四人の兄姉にかまわれて育っているというのに、この弟は、我侭放題というわけでもなく、むしろ聞き分けよく、大変大人しい。そこがまた可愛らしかった。
毎日見慣れた庭の何がそんなに楽しいのか、自分の背丈の半分ほどもない弟は走り回っては笑い、転げては笑い、花を摘んでは笑っている。にいさま、と、まだ子供っぽい舌足らずさを残した口調で自分を呼ぶのがどうにも可愛い。アナイスは呼ばれる度に、頬を緩めて何だと弟の頭を撫でた。
と、弟が、突然ふいと門のほうに向かって駈けだした。小さな弟は懸命に走っているのだが、背丈が違う。アナイスはすぐにその背に追いついて、どうかしたのかと尋ねた。
とうさまがかえってきたよ、弟は走る速度を緩めないながらも顔中に笑みを浮かべ、少し息を切らせながら答えを返した。今日は父母は産気づいたらしき王妃の付き添いに、朝早くから城のほうに詰めていたため、弟が目を覚ました時にはもう姿が見えなかった。成る程だからいつもより余計にその帰りが嬉しかったのだろう。
とことこと一生懸命走る弟を追いかけながら、アナイスはふと思いついた疑問に首をかしげる。父が帰ってきたというが、門が開く軋みも馬車の音も何一つ、自分には聞こえなかった。というより、ここは正門から相当離れている。聞こえなくて当然なのだ。何故弟には、父の帰りがわかったのか。
優れた術師は自分の周りの気配を相当に広い範囲で感じ取るという話を聞いたことをアナイスは思い出した。彼自身も同年代には比べる者が無いほど優秀だったが、幼い弟は兄よりも素質に恵まれたらしかった。
胸騒ぎがした。
可愛い弟が優れた能力を持つこと自体は喜ばしい。しかし彼には、それがどうにもざわざわと不安で仕方がなかった。その力がために弟はいずれ不幸に遭うような、そんな気がしてならなかった。
馬鹿馬鹿しい、ただの気のせいだ。呟き、首を振って、彼はその不安を無かったことにした。万一、そう万が一、弟が何かしらの不都合に巻き込まれたところで、父がいる。母もいる。自分達兄姉がいる。皆で助けてやればよい。そう思った。
そうこうするうちに、二人ほぼ同時に建物の角を曲がった。視界が一気に開け、緑が芽吹き始めた木々の向こうに、確かに父の姿があった。
「おかえりなさい、とうさま!」
明るい声で笑いながら、両手を伸ばして弟が父、アーネストに駆け寄っていくのを見ながら、おかえりなさい、父上と弟に続いて挨拶を済ませたアナイスは、先程のそれによく似た胸騒ぎが心中に広がっていくのを感じていた。
どうして今日は、父上は弟に笑いかけないのだろう。
いや、正確に言えば、笑ってはいる。笑ってはいるのだが、その笑顔は、はっきりと見て取れる程に半端だった。憂鬱を一枚皮で繕った無理矢理の笑顔であることを、アナイスは悟った。彼は年長であり、小さな弟よりも物事をわかっていた。
父上、城で何かあったのですか。母上はまだ帰らないのですか。
自然とそれは不安を含んだ声になった。服の裾を掴んではしゃぐ末っ子の頭を撫でていたアーネストは、一瞬その手を止め、アナイスを見、再び末子に視線を戻した。小さな末っ子はちょうど、今日昼食の後に出てきた焼き菓子の話に夢中であった。もちろん兄の声など耳に入ってはいなかった。
「私にも、その菓子をひとつ取ってきてくれないか」
優しく父に言われ、末っ子はぱっと顔を輝かせ、はい、とうさまと元気よく返事をして、くるりと踵を返し家の中へと駈けていった。その後ろ姿が転びもせずに無事に屋敷に入るまでを目で追ってから、アナイスは父のほうを振り返った。
菓子など、わざわざ取りに行かせずとも、どうせこれから屋敷に戻るのだ。いくらでも置いてある。
「何があったのですか」
弟に聞かせたくないような、何が。
不安と焦りが際限なく心に広がっていくのをアナイスは感じた。自分ではわからないが、表情も相当に切羽詰まっていたろう。アーネストは息をひとつついて、ゆっくりと、人目をはばかるような小さな声で言った。
王子がお生まれになった。
アナイスは一瞬ぽかんと口を開けたまま目を丸くして父を見た。それは目出度いことではないか。何故、父はそれを憂えているのだろう。口には出さなかったアナイスの疑問は当然のことであり、勿論アーネストにも容易に予想できた。かすかに顔をしかめ、彼は言葉を続けた。
王子は双子だった。
尚もアナイスの疑問は晴れなかった。確かに双子は王位の継承に絡んだ揉め事に繋がることが多い。だがそれでも、王子誕生の喜びを打ち消す程ではないではないか。尤もなアナイスの考えは、父の次の言葉で霧消した。
そしてその一方が、王を弑し闇に堕ちるとの星見が為されたのだ。
絶句するアナイスの前で、アーネストは一旦口をつぐんだ。冷たい空気が重苦しく身体を押さえつける。梢の鮮やかな緑が途端に色褪せるような錯覚を覚えた。
王は即座に、片割れを殺せとおっしゃった。だが、星見は星見、あくまでも先読み。まだ起きても居ない、起きると定められてもいないもののために、生まれたばかりの赤子を、殺すことができようか。苦しげにそう呟いた父が手のひらで顔を覆うのを、アナイスはただただ見つめるばかりだった。
しばらく凍り付いていたアナイスは、はっと目を見開き、肩を震わせる。さっき弟の後ろ姿を追いながら感じた不安が、現実味を帯びていくのを彼は感じていた。
「父上、…王子は、お二人とも、殺されはしないのですね?」
アナイスの問いに、アーネストは頷いた。今殺されはしない。母である王妃とて、そのようなことは、許さぬ。そう言いながら、沈鬱を滲ませる。それを聞きながら、アナイスの表情は尚曇った。
「明日、王子生誕の触れが為される。双子であることは、王家と我らを含め、限られた者しか知らぬ。無論不吉な先読みもだ。そして兄君が、王位継承者として育てられるだろう」
「弟君は」
「…十五の誕生日まで、人の目に触れぬ様、どこかに幽閉される」
そんな、と、アナイスは呻いた。声に出さぬまでも、アーネストも浮かべる表情は同様に苦悶だった。
「弟君に王位継承権を認めなければ、その身体に流れる神の血を、ひいてはその兄君の正当性も、現国王の神性も、全て否定することになる。殺さない以上、王子として認めざるを得ない。だが、あのような星見が為された以上、世に出すわけにもゆかぬとの、王の仰せだ」
「我が家に、養子として迎えることは、できないのですか」
「できぬ。王子は二人とも、片目は母君譲りの碧眼、もう片方は王位継承者の証、金の眼なのだぞ。育てばはっきりするだろうが、おそらくは容姿も瓜二つであろう。出自など一目瞭然だ」
アーネストは唇を噛んだ。アナイスに問われるまでもなく、彼もそれを考えた。だが力を分けたのが瞳の色で明白なこの二人は、外見も何もかもを同じくするに違いない。せめて双子でも容姿が違えば。金の眼を分かつことなく生まれていれば、末子として迎え入れることもできようものを。
「人前に出せば、双子であることが一目でわかる。利用を考える者も居よう。そうすれば先読みは現実になりかねん。王子が大人として認められる十五の年を越え、自ら王位を捨てると宣言するまで、自由は叶わぬ」
「では、王子の、遊び相手は」
続けようとした言葉は押し潰されて声にはならなかった。
王家に子供が生まれれば、クローデル家で最も年近い子供が、その遊び相手として、また最初の従者として選ばれる。それが国始まって以来の習わしだった。治癒の法を自在に操る者を最も近しい場所に置くのは、王位継承者を守るという意味でも理に叶う。アナイスも今、このときまでは、そう思っていた。だが。
今日、この日、生まれた王子に、最も年が近いのは、末子、すなわち。
あの小さな弟ではないか。
只の先読み、そうは言ってもそのような不吉な星の下へ生まれついたというのならば、平穏な人生を歩むとは、とても思えなかった。挙げ句幽閉されるという。可愛いばかりの末の弟を、王子といえど、そんな兄弟のところへやれようか。
父は黙ったまま何も言わない。否定しないということは、それは肯定以外の何だ。
あまりのことに絶句するアナイスを見つめながら、アーネストは、城での顛末を思い出していた。
王と相対し、できません、と、彼は答えた。部屋には二人のみで、他に誰もいない。護衛を同席させることなく王に対峙できるのは、最も王家に近い血を受け継ぎ、王家に次ぐ権力を有する家の当主であり、またこの国の最高司祭を務める者であるがこそだ。その、謁見の静粛とは違う、押し潰されそうに陰鬱な空気の下で、静かでありながら叫ぶように、必死に彼は訴えた。
星見がいかに不吉でも、そのような、現実になるとも知れない世迷い言の為に、正銘の王の子、つまりは神の血を引く後継に当たる赤子を殺すことはできないと、それは人の手で殺して良いものでは無いのだと、彼は重ねて言い募った。しかしその実、彼の心にあったものはというと、彼自身の子供達であった。
年よりも大人びた長男、明るく快活な次男、大人しいながらも芯は強い三男に、利発でよく笑う長女。そして今が可愛いさかりの末っ子。子供達の小さな手を初めて握ったときの嬉しさを、笑いかけられたときの溶けそうな喜びを、今も褪せず覚えている。王の子だろうが、それが神の写し身であろうが、或いは只の人の子だろうが関係ない。犯してもいない罪のために、生まれて間もない幼子を、殺すことなど許されるわけがないと、彼は信じていた。ただ頑なに弟を殺せと言う王を説き伏せる為だけに、彼は神の子という言葉を使ったのだった。
王は鬱陶しそうに眉を寄せ赤子が眠る部屋へ続く扉から眼を背けた。眼と揃いの金髪が揺れた。赤子は二人とも生まれたばかりというのに整った顔立ちをして、今は心地よさげにすやすやと眠っていたが、その可愛らしい子供たちは、王には嫌悪の対象としか写らぬらしい。別室にあって姿が見えない今の状況でも尚、そちらに視線をやることさえも不愉快と見えた。
ならばお前の言う通り、殺しはすまい。だが金輪際、我の傍に置くことは許さぬ。低い声で、王は言った。
そうであるな、その子らは二人とも等しく神の子、ならば我らが王位継承権を剥奪するも叶わぬということだ。認めよう。だがあのような星見が出された王子を、世に出すわけにもゆくまい。唇を薄く笑みの形に歪めた王を見て、彼は、自分は取るべき行動を誤ったのかもしれないと、背筋を粟立たせた。
子供は殺したと偽って、どこか別の国へでも、逃がしてやれば良かった。市井に紛れて平穏に生きるには過ぎた血筋と力を持って生まれた子でも、あのような星見に縛られて生涯を送るよりは、余程幸せだったろう。王子として生を受けたなら、その定めのままに生かしてやりたいとどこかで思った、それが間違いだった。けれどもう遅い。
王は笑っていた。残酷な笑みだった。彼には理解し難かった。確かにあの星見を聞けば、平静では居られまい。だが内容を知ったときのあの様は、筆舌に尽くしがたかった。狂気の沙汰と言っても差し支えなかったろう。そしてわずかに正気を取り戻して最初に口にした言葉が、弟を殺せ、だった。あまつさえその赤子を悪魔呼ばわりした。
同じく子供を持つ者として、それは理解の範疇を逸脱していた。無論彼自身は子供に殺されるなどという行く末を、戯れ言にでも告げられたことはない。しかし自分の子が、たとえばあの小さな末っ子が、育った末に自分を殺すと言われたとして、果たして即座に殺せなどと言えるだろうか。否、少なくとも自分は、あの幼子を殺せとは命じることはできまい。そう思う。自分の血を分けた頼りなくも愛らしい子供を、殺せるだろうか。或いは自分の手を汚さないまでも、他人の手にかかるのを、黙って見過ごせるだろうか。そんな筈が無い。殺されるそのときまで、いいや殺されてなお、自分はあの子を愛しこそすれ、憎むことはけしてできないだろう。
彼は遣り場のない後悔に表情を歪めた。幼い頃から付き従ってきた主君だった。気性が激しくとも、聡明であった。けして暴君などではなかった。よもや自分の子を殺せと命じようとは思いもつかなかったし、我が子を悪魔と呼ぼうなど微塵も予想しなかった。だからこそ、不吉な先読みを知ったが故の一時の気の迷いであろうと、彼は言葉を尽くして諫めたのだ。しかしそれが仇になったと言えよう。
弟は幽閉せよ。十五の年になり、当人が王位も国も捨てると誓えば、そのときは出してやるが良い。王の命令は、幼い子供に強いるにはあまりの処遇だったが、項垂れたとも見える様で彼は頷いた。頷くしか無かったと言った方がふさわしい。これ以上食い下がってより悲惨な待遇にならないとも限らないのだ。
そして落胆する彼に王はこうも言った。そして笑った。
お前は自分の子供が悪魔の側仕えになることを何とも思わないのか、と。
風がまた吹いた。木々がざわついた。薄ら寒い空気が首筋を撫でた。だがぞわりと身体が震えたのは、空気の冷たさのみに寄るものではないと、二人とも知っていた。
とうさま、と、声が聞こえた。末っ子が息を切らせて戻ってくる。手には菓子をふたつ持っていた。アーネストはすぐに顔に張り付かせた憂鬱を隠して笑いかけたが、アナイスには無理だった。弟が自分の表情に気付かないようにと願いながら、彼は努めて今聞いた話を一旦思考の外に追いやろうとした。だが、余りの内容に、早々消し去ることなど出来はしなかった。
小さな末っ子はにっこり笑って、はい、と、手にした菓子を差し出した。ひとつめは父親に。ふたつめは兄に。父はそれを受け取りありがとうと笑って末っ子の頭を撫でた。末っ子は嬉しそうに父の手にひとしきり甘えた。兄は菓子を手に取って半ば上の空でそれをかじろうとし、はたと気付き、おまえのはどうしたのと尋ねかけ、言葉を飲んだ。その小さな手では菓子はひとつしか持てなかったのだ。右手にひとつ、左手にもうひとつ。扉は使用人の誰かにでも開けてもらったのだろう。
彼は菓子をふたつに割って、まだ自分の腰ほどにも背丈の無い弟に半分を手渡した。ぱっと顔を輝かせ、ありがとうにいさまと、明るい声で言うのを聞きながら、空いた方の手で弟を抱き上げる。きゃあと声を上げてはしゃぐ弟の身体は軽かった。武術の鍛錬などには縁の無い彼が片手で抱き上げてなお負担を感じないほど幼く小さく軽かった。無性に泣きたい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。
「にいさまだいすき。とうさまもかあさまも、みんな」
首筋に抱きつくその腕はまだ短くて、ぐるり一周は回らない。そうして父や兄の憂鬱は知らず、ただ幸せに笑う幼いこの子こそがおそらくは、最も苦難をその身に受けることになるのだろうと、二人は予感していた。
「私も、父上も母上も、他の兄弟達も皆、お前を心から愛しているよ」
細く柔らかい髪が頬をくすぐった。子供の高い体温が、冷えた身体に暖かかった。
「だからノイエ、どうか幸せに」
彼は弟の身体を抱き締め、切に呟いた。視界の端、弟に見えぬところで、父親が悲しげに笑うのが見えた。
年端もゆかぬくせに我が儘一つ言わず、自分の分を一番後回しにする優しい子だから尚のこと、ひたすらに幸せを願うのに、そのためなら自分たちは何をも厭わないのに、それは叶わないような気がしてならず。
ゆっくりと落ちていく陽の色付き始めた光が無邪気に笑う弟に酷く朱い影を落とすのを、この胸騒ぎと共にぬぐい去りたいとアナイスは思った。