Crashers

初冬

寒いのは なぜ ?

 気付いてみれば、夜だった。
 正確に言えばまだ西の空の地平あたりには深い朱の残照が残ってはいたが、最早夜と表現しても差し支えない程度に辺りは暗かった。薄暗いどころの話ではない。暗い。明らかに暗い。庭木が輪郭しかわからない影絵になる程度に暗い。
 外に出たのは昼と大差ない明るさの時間で、夕暮れにさえまだ間があったはずだ。それが一体、何をどうすれば、こんな有様になるまで、暮れたことにさえ気付かずに惚けていられるというのか。自分でも不思議だった。秋の日は釣瓶落としであるのなら、成る程秋よりは冬に近い今は、尚のこと早く落ちるだろう。それにしたって、目に入っていた筈の空の色が変わる様さえ意識に全く上らないとは。
 ため息をひとつ吐いた。
 それに被さるように、そんな格好では冷えますよと、背中から執事の声が聞こえた。
 優士は曖昧な返事を返し、もう一つ息を吐き、吐いた息がうっすら白く煙るのを見、硝子を通して落ちてくる室内の明かりに指先を透かし、それが赤くかじかんでいるのを、半ば他人事のように眺めた。
 冷えているのはわかる。
 では何故冷えるのだろう。
 
 そろそろ冬になるからか。
 それとも日が沈んでしまったからか。
 ここが吹きっ晒しの庭先だからか。
 そんな中上着もまともに羽織らずに居るせいか。
 
 違う気がした。
 冷えるのは。
 寒いのは。
 あの手が此処にないせいだ。そう思った。
 
 空を見上げる。残り日さえも失せた紺碧に星が散っていた。
 無意識に、ほんの少し、夜空に向かって手が動いた。動いたところでそれに気付いた。そして伸ばすのを止めにした。
 重ねて名前を呼ばれる。今度ははっきり、今戻ると返した。
 残響もなく直ぐに声は消えて、しんと静かになった。踵を返したときに靴底と石畳でよれた石が立てた、ざり、という音が、やけに耳障りで仕方が無かった。
 
 手を伸ばせば届く距離にいた、あの頃は、寒くなかった。
 真冬でも、雪の中でも、水溜まりが凍る朝でも、皮膚を締め付けるその感覚が、寒いと言い表すべきものであっても、何時触れてもその指先は、自分より冷たかったとしても、寒いと思ったことなど無かった。
 
 
 そして今はただ、あの冷たい指先を、それよりも冷える心でただ、思い出す。
 冬でなくとも凍えながら。

あと二つほどを残して終わらないままになってしまった15のお題(適当に自作)の一つ
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お題は「会いたいよ」でした
なんか自分担当のセミナー前日に徹夜しているとき書いた記憶があるよ
こんなんばっかだ_| ̄|.......((○

2005年10月21日 11:29

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