Crashers

絶つ鳥

残してほしい …残ってほしい

 
 

 腹が立つ程、窓から覗く空は晴れていた。薄い雲は白かった。梅雨時だというのに雨の気配など微塵もなかった。
「少ない荷物だな」
 優士が独り言のように呟くのに、蘭は適当な声色の生返事を返した。
 着替えと数冊の本、そして刀以外にほとんどこれといったものも鞄に詰めてはいないのに、それだけでもう部屋に彼の私物は無くなった。まるで旅行にでも出るような身軽さで彼はこの家を出ていく。
 今日は風も強く無かった。雲はじっと見ていても解らない程度にその動きを止めていた。雨でも降れば良いのにと、優士は思った。
 そろそろ、出てくよ。
 そう言ったときの彼に、躊躇とかいった類の言葉で表されるようなものの片鱗を感じ取ったのはきっと気のせいではなく、それは止める理由に為りうる程に明瞭でもなかった。
 彼がこれから出て行く場所は、晴れている。
 それが無性に気に触った。
 組んだ腕の影で握りしめた手に爪が刺さった。手のひらに触れること自体珍しいくらい短く切り揃えた爪の先は指と同じく丸くて、皮膚を傷つけるどころか痛みすらも与えなかった。だからきっと、今指先も手のひらも痛いのには、他に理由があるのだろう。
 自分の荷物を揃えて扉の脇に纏めて置くと、蘭は雑巾を手にした。優士は首を横に振った。意味を量りかねた蘭が怪訝そうに優士を見る。さらに重ねて首を横に振った優士は、微かに笑った。
 人の人生に口だけならともかく手を出す権利なんて無いだろうという言い分を馬鹿だと笑いそうな人間の顔が浮かんだ。三度目に首を横に振ったのは、それを頭のどこかに追い遣ろうという意図が先に立った。
 蘭は所在なげに雑巾を手にしたまま立ち尽くしていた。自分が使っていた部屋くらいきっちり片づけて行けと、率先して小言をまくし立てそうな相手が、それを不要だと言っている。不思議でならなかった。それこそ雨でも降るのではないのかと、冗談交じりに蘭は思ったが、口には出さなかった。
 そう、腹が立つ程、空は青く青く晴れていた。
 曇れば良い。雨くらい、降れば良い。
 それで先延ばしになるような別れではなくとも。
 ――それでも。
 降れば良い。
 僅かな理由にもならない晴天よりは、土砂降りでも霧雨でもかまわない、雨が良い。
 どうせこの手ではきっと、捕まらないのだから。
 優士は目を伏せて、笑った。
 蘭はやはり、首をかしげてその様を見つめた。
 
 立つ鳥後を濁さずとはよく、言うけれど。
 
「そのままでいい」
 
 酷いとは思わないか
 この痛み以外何ひとつ、残していってはくれないなんて。

 
 
 
 
 
 
 

自分で15個ほど考えたお題で書いたもの
ジャンル混合でやってたのに超ドン亀更新…
完遂せずにジャンル別メニューに移ることと相成りましたorz あと2つほどだったんですが

このお話のお題は「掃除」でした

 
May 6, 2005
 
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