Crashers
流星群
星に願いを
「ねー優士、屋根上っていい?」
いつものごとくに脈絡の無い成の問いに、優士はこめかみを押さえた。
雪でも降ろうかという寒さの冬の夜だ。何を好き好んで寒風に吹かれに行くというのか。しかも此処は平屋ではない。落ちれば無傷では済むまい。
駄目だというその一言で終わるはずだった。しかも優士の目の前には仕事が少なからず残されていた。成の酔狂に付き合っている暇は無いのだった。にも係わらず、禁止の台詞を音にしかけた唇をこわばらせ、喉まで出かかったそれを飲み込んだのは。
「今日は流星群が来るよ」
成が続けた言葉のせいだった。
空の近くで見ようよ。
さらに言い募る成に、優士はすぐには答えなかったけれど、結局のところ、一度目に言葉を押さえ込んだ時点で、答えは決まっていた。
「…何時からだ」
ずっと書類に向けたままだった視線をほんの少し上げたその先で、成が嬉しげに笑う様が、まるで自分の考えたことを見透かしているようで、優士は対照的な仏頂面を浮かべた。
もうそろそろ日付が変わろうかという時刻になって、二人はこっそりと屋根に上った。成が勝手に上るならいざ知らず、この家の主人である優士が居ても、盗人と言われておかしくないほど物音に気を使うのは、太陽に気づかれないためだった。目の見えない妹に心配をかけることを優士は好まない。耳の鋭い彼女に悟られずに屋根をうろつきまわるのは骨だったが、成も大人しく従った。
空は見事に晴れ渡っていた。吸い込まれそうな暗闇には雲ひとつなく、そこにちかちかと小さな星がいくつも輝いていた。
じっと夜空を見つめる。時折、まばたきを忘れた。いったいその向こうに何があるというのか、自分に問いたくなるほど懸命に、優士は空を見つめた。まるで小さな子供のようだった。
手袋をしていても指先が冷えていくのが分かった。吸い込むたびに肺が凍るのではないかというほど空気は冷たかった。頬は寒さに引き攣った。それでも二人のどちらも、やっぱり家の中から見ようとは言い出さなかった。
一面動くものなど無かった空に、ふいと、一筋、細い細い光が走った。
あ、と成が指差した先で、二つ目が落ちた。
しばらく間を空けて、三つ目、四つ目が続いて流れた。
後はもう、数えなかった。
数え切れないほどの星が、空のあちらこちらを、流れては落ちた。
綺麗だと音もなく息だけで成が言うのを優士は見て、同じ言葉でも人により唇の動きは違うのだなと思った。何年も前、同じ言葉を呟いた、忘れることの出来ない面差しは、他の誰にも重なってはくれない。
視線を逸らし、暗闇に向け、尽きることなく落ちてゆく星を、ひたすらに追う。 目にすれば、思い出し、無論平静ではいられないと知りながら、流星群という言葉に、記憶の中の面影を手繰らずにはいられなかった。
動揺と追憶と感傷とがない交ぜになったであろうその表情を見て、成は笑った。
声にならなくとも、言わんとすることは嫌でも分かった。分からないはずが無かった。
蘭も好きだったねと。
成は無言でそう言ったのだ。
『何を願う?』
あのとき問われて即座に何もと返したのは、信じていたから。
星に願うことなど何もないと。
隣に居る人間を自分の手でしあわせにしたいと
そしてそれが出来ると、根拠の在り処も見えないのにただ信じていた。
流れ星に願えばその願い事は叶う、そんなことを最初に言ったのは誰だろう。
くだらない迷信でも良い、縋らせてくれ。
あんなにもたくさんたくさん降るのなら
その中のひとつでいい、この願いを叶えてはくれないだろうか?
星が降るたびに繰り返す願い事はただひとつ 同じ星空を見ているとしても
この手が届く場所にはいないから
星にでも願うしかないのだと
最愛のひとよ どうか幸いであれ
何と引き換えにしても良い
他に 何もいらない。
離ればなれの話ばっか書いてる気がしますが
最後は蘭は優士のところに戻ってくると信じていますよ、ええ、信じていますとも
…本当です信じてくださいorz
2004年01月30日 23:23
