Crashers

追憶

自由の牢獄

 
 

 ベッドの端っこに座って、部屋の中を見回した。この屋敷にはたくさん人が居るはずなのに、この部屋はいつも静かだ。
 ここに居候がいた時も、家具はもともとこの部屋に置かれていたものだったし、仮住まいの当人もさして荷物を持っていなかったから、昔も今もこの部屋のたたずまいは大して変わっていないと思う。それでも、誰も使っていない部屋の生活感の無さというのは一種独特であった。
 この屋敷の主人は、誰も使っていないこの部屋を、毎日掃除させ、窓を開け、空気を入れ替えて、いつも綺麗にしていた。他の無人の部屋とは明らかに異なるその扱いの意味を、勿論成は知っている。
 ベッドと反対側の壁に置かれた天井まである本棚の上から三番目の棚板が、ちょうど彼の頭のてっぺんだった。その一つ下が自分の視線の高さであった。
 棚一段分背丈が伸びる長さを、彼は待ってはくれなかった。
 いつか追い越すと言った自分に、できるものならやってみろと笑ったあの時の彼の言葉が、最初から別れを意味していたとは考え過ぎなのだろうけれど。
 死んだ子供の年を数えても仕方無いとはよく言う。死んでしまったものはどれだけ惜しもうと帰ってはこない。何時までも捕われていては前に進めない。
 では、生死も居場所も分からない人間はいかに?
 また会える可能性は殆どない。殆どだ。零ではない。その無いも同然の細い糸が、いつまでも、自分を此処に繋ぎ止めている。
 明日の無い希望よりも、むしろ絶望の明日を。
 誰かが言った言葉を思い出す。当人が意図したと同じ意味を持ってそれを自分が理解しているかどうかは知らない。そしてそれはさしたる問題でもない。ただ、今、その言葉が、自分の中に深く深く浸透していく、それだけである。
 絶望の明日など選べない。
 明日の無い希望が失われる明日を、自分は何よりも怖れているのだ。
 そしてまた、この部屋に掃除以上の手をけして加えようとはしない彼も、同じことを怖れているのに違いない。
 風にカーテンがさらさらと揺れた。晴れた空が大きな硝子窓から見えた。
 
 思い続けるも、忘れるも、自分の自由であり、それは自由という名をしていながらその実何の自由も許さない。
 簡単な話だ。
 答えなど考えるまでも無く最初から決まっているのだから。

 
 
 
 
 
 
 

珍しく成
でもやっぱり前提は優蘭

 
January 4, 2004
 
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