Crashers
彼方
虹のふもとにいってみたい?
「暑い……」
照り付ける太陽とひどく湿気を含んだ雨上がりの空気に、蘭が萎えた声でため息まじりにボヤいた。
「夏だもんね~」
天晴れな程に能天気な成の返事に、お子様は元気だな、と、厭味にもならない、わざとらしい厭味っぽさで蘭が笑った。お子様ですから、と、成も笑った。
真っ白に空を抜ける太陽の光が、アスファルトを灼いていた。薄い靴底を通して伝わる熱さが痛い。
「ていうかさ、さっきまで雨が降ってておまけにこんなクソ暑い日に、何で買い物なんだ? しかも、何でオレが付き合ってるんだ?」
蘭が唇を尖らせる。
前面に出した不平不満に出かけるのを渋った本当の理由なんて無い。
暑いからじゃあないでしょと、笑って言ってやろうかと。
そうしたらこの天邪鬼は、どんな顔をするだろうと。
真っ青な空を見上げて一人思った。
「あ」
突然成が上げた頓狂な声に、蘭も何事かと空を見上げる。そうして同じように口を開けて、空に魅入った。
公園の木々の梢から空に驚くほどくっきりと、七色の細い虹。
「すごーい、久々に見たよ」
キレイだとはしゃぐ成の横で、蘭は、成をガキだといつものように笑うことも忘れて色に見とれた。その様子は、きっと自分よりもコドモだと成は思った。
「虹の足元って行ってみたいよな」
その言葉も、普段のひねた態度とは裏腹に無邪気を思わせる。
知っているよ。
今日、優士が久しぶりに仕事無くって、一日家に居るんでしょう。
だから蘭も、一緒に居たかったんだよね。
出かけようよと蘭を引っ張り出したときの優士の顔を、見せたかった。あんなにもあからさまに残念そうなため息に気付かないとは何とも鈍感なことで。
分かりやすい二人。笑ってしまうほど。
「蘭は虹の中だよ」
聞こえないように言った。
幸せは虹のよう
―――その只中にあっては気付けないもの。
知らないうちが花に違いない。
そしてもしかすると、今自分が居るこの場所も、
見えない幸せの中なのかもしれないと思った。
虹のふもとは幸せの在処。
それは気付けない青い鳥。
失くしたことを知って嘆くその日まで。