Crashers
蒼天
凍り付く青空
「すっげー、青い空」
眼を細め、雲ひとつ無い青空を見上げて蘭が笑った。
その蘭を見て、優士は少しだけ表情を緩める。
最近、いつも仏頂面か蓮っ葉な表情の蘭が、時々、ほんの一瞬だけ笑うようになった。それは本当に一瞬の、零れるような笑みだから、注意深く見ていないと、すぐにふいと消えてしまう。
見逃すのが勿体無くて、優士は、つい蘭のほうに視線を向ける。
「なあ、綺麗だよな」
「ああ」
その視線に気づいているのかいないのか。蘭は、思いついたように少し笑っては、またいつもの顔に戻った。
頭上には青空。
抜けるような、高い空。
「生まれてきてよかったのかなあ」
その青い青い空に、溶けて消えてしまいそうな声で、蘭が呟いた。
淋しい言葉に何と言ったらいいのかわからなかった。
思うところの無い人生を送ってきたなら、こんな仕事、つくこともないはず。
辛いことの無い人生なら、そんな台詞、思いつきもしないはず。
ここにいること、出逢ったこと、それ自体が、彼の悲しみの証拠以外の何物でもないのだから。
胸が、痛んだ。
辛いだろうことを知ってる。
だけどその辛さを知らない。
他の人間のことにまでかまう余裕など無いと、叫ぶように言った。
あのとき、どうして金がいるのかと、考えるほうに頭が向かなかった自分。
もしかしたら、誰かのために?
目の前にいる彼は、自分のために守銭奴になるような人間には見えなかった。
苦い痛みを感じても、謝ることも今更に思えた。
「ホント、いかにも、ってカンジの青」
また少し笑う。
「何か、―――アンタみたい」
笑う。
そんなことを言うから、勘違いしたくなる。
空に向ける、その愛しげな視線の先にいる人間を。
まだ肌寒い季節に、半袖など着るから、手を伸ばし捕まえて、引き寄せた身体は少し冷えていた。
自分のとった行動に自分で驚いて動けない。
腕の中、蘭は抗議もしなかった。あの、蘭が。
何故とも問わず。
「…知ってる? 空ってさ、滅茶苦茶寒いんだって」
「ああ、知っている」
背中から抱き寄せたから、表情は見えない。
「けど、アンタは……あったかいな」
ただ、笑っていてくれるようにと望んだ。
青い、空。
痛む胸。
いい加減、認めざるを得ない。
本当は、痛いのではなくて、
切ないと、言うのだ。
きっと、繋ぎとめてなんておけないから
叶うなら、いっそ、このまま一緒に溶けてしまいたいと思う。
あの高い高い空に
―――氷点下の、蒼天に。